コロナの「前」と「後」を比べる私たちに、圧倒的に足りないもの

平安時代に大流行した和歌から学ぶ
佐藤 優 プロフィール

さて、『梁塵秘抄』には様々な動植物が登場する。虫について植木氏はこう強調する。

虫を見つめ、虫と遊んだ人々は、虫に「なる」ことがあった。虫に「なる」芸能は他の獣や鳥になる芸能と並んで「動物風流」として民俗学の方面から研究されている。

なぜ動物に「なる」のかについては、民俗芸能に現れる動物を聖なるものとする見方や、人間にとって有害な動物を演じてその害獣追放とそれによる豊穣を祈願する、あるいは逆に人間にとって有益な動物を演じて豊穣を祈願するという見方が提出されてきた。

 

橋本裕之は、こうした人間にとって有害か有益か、信仰の対象か憎悪の対象かといった価値判断によらず、動物が抱える統御されない力、野性の力とでもよぶべきものを人間が我が物とするプロセスとして動物風流を捉えるという卓見を示した〉

虫を観察の対象として眺めるだけでは不十分で、虫に「なる」ことが必要なのだ。そうすることで、虫の内在的論理をとらえることができる。

新型コロナウイルス禍から抜け出すためにも、このウイルスになってみて、ウイルスの内在的論理を掴む作業がとても重要と評者は考える。惰性化した常識の枠を崩すのに本書はとても有益だ。

『週刊現代』2020年6月6日号より