コロナの「前」と「後」を比べる私たちに、圧倒的に足りないもの

平安時代に大流行した和歌から学ぶ
佐藤 優 プロフィール
Photo by iStock
 
榎克朗 新潮日本古典集成『梁塵秘抄』新潮社 一九七九年

「笠を落としたので心ならずも来れなかったんだ」という男の下手な言い訳をからかった遊君の歌、と解してみた。意地悪でなく、心からおもしろがっている女の口ぶりが全編にゆきわたって、さわやかな秀作〉

1つの歌について、主従関係、愛し合う男女の関係、訪問をすっぽかしたことを言い訳する男に対する遊女のからかいというようにまったく異なった解釈が可能になる。

どれも説得力がある理論武装がなされている。同じ事柄でも複数の見方が可能になることを『梁塵秘抄』を通じて学ぶことができる。

現代はあらゆる分野でダイバシティー(多様性)が強調される。われわれは中世歌謡の解釈を通じてもダイバシティーに対する感覚を研ぎ澄ますことができる。

植木氏は、2020年4月から同志社大学学長に就任した。重点課題としてダイバシティーを掲げている。大学を含め近代システムの制度疲労は極点まで達している。

ポストモダンは未だ到来していない。そのような状況で、プレモダンな中世歌謡に通暁した知識人ならば、近現代と中世という異なった世界観から物事を立体的に見ることができる。危機の時代にこそ文学者が大きな役割を果たせると評者は考える。