前出の平成30年度「通信利用動向調査」によれば、世帯年収が400万円を超える家庭とそれ以下の家庭とでは、インターネット利用率に顕著な差が生まれているのだ。
なるべく家計を低く抑えたい家庭で、固定網への出費を厭(いと)うのはよくわかる。モバイル回線のほうが高いのはわかっていても、スマホはすでに生活必需品ということだろう。その結果、パソコンや固定回線でのインターネット利用まではなかなか手が回らない……、というのが実情なのではないか。

現実問題として、緊急事態宣言の発令中はネット回線の工事も混み合っており、「固定回線の設置を待てないのでモバイル回線で」という人もいたようだ。
渋谷区の試み
モバイル回線でインターネット接続ができる家庭はまだいい。それすら準備できない家庭があることは、この3ヵ月、教育の現場でかなり大きな問題となっていた。
ある程度は自分で判断して、必要に応じて相談もできる大学生ならともかく、初等・中等教育の段階で「家庭の事情でインターネットが使えないことによって教育格差が生まれる」のは、非常に厳しいことだ。そのため、授業はもちろんのこと、各種連絡などにも「やはり紙を使わねばならない」といった事例も耳にした。
通信環境格差を低減する対策として、モバイルWi-Fiルーターを各家庭に配ろう、という施策もあったが、コロナ禍下の喫緊のスケジュールでは間に合わず、今後の検討課題となっている。
東京都渋谷区は、マイクロソフトのパソコン「Surface Go 2」を1万2500台導入し、区立の小・中学校に通うすべての児童生徒向けに、2020年9月から配布することを決めた。配るのは安価なWi-Fiモデルではなく、携帯電話ネットワークでの通信が可能な「LTEモデル」だ。
文部科学省が推進する「GIGAスクール構想」に基づく施策だが、国からの予算は「1台あたり4万5000円」まで。LTEモデルは、法人向けに出荷される同等の製品では8万7800円(税別)と高い。実際の調達価格はおそらく、これより安くなっていると思われるが、規定の4万5000円を上回るのは確実だ。 超過分の費用は、渋谷区が負担する。

渋谷区が大きな額を負担するのは、どの児童も、どこでも同じように教育のための通信がおこなえるように、との配慮からだ。2017年より渋谷区は、区立小・中学校のすべての教員、生徒や児童にLTE通信機能付きWindowsタブレットを1人1台貸与する「渋谷区モデル」を推進しており、今回の施策もその一環である。
財源確保の課題はあるが、こうした施策は他の市区町村にも広がっていくのではないか。
そして、その先には、さらに大きな課題が待ち受けている。