新型コロナウイルス・パンデミックの第1波が、先進国やアジア諸国ではやや落ち着きを見せる中、世界保健機関(WHO)を巡る国際情勢はますますきな臭さを増してきた。
5月29日、トランプ米大統領はホワイトハウスでの記者会見で、「本日WHOとの関係を終わらせにいく」と語り、WHOから脱退する意思を表明。パンデミックのさなかに、世界の大国アメリカが国連の保健機関から脱退するとの情報は、世界中を駆け巡り、大きな反響を呼んだ。
脱退を決めたこの日のトランプ大統領の演説は、「中国に対抗する行動」とのタイトルが付いているぐらい中国を意識したものとなっていた。
「前政権時代に中国は我々から数千億ドルもの大金を奪い取った」「中国は工場を奪い、雇用を奪い、産業を奪い、知的財産を盗み、世界貿易機関での約束を破った」「中国は非合法的に太平洋の領海を主張し、航行の自由と国際貿易を脅威に晒し、香港の自治を保証するという約束を破った」「中国が武漢ウイルスを隠蔽したせいで、ウイルスは世界中に蔓延し、10万人のアメリカ人、世界中では100万人の命を奪った」……。
まさに中国批判オンパレードの演説だった。
また、この演説では、ことさら「前政権」という表現が多用されていた。背景には、まもなく始まるアメリカ大統領選挙を意識して、前オバマ民主党政権の”失政”をアピールする狙いがあったと見られる。
そして、トランプ大統領は、その一環として「中国はWHOを完全に操っている。アメリカが年間4.5億ドルも資金拠出する中、中国は4000万ドルしか支払っていないにもかかわらずだ」と批判し、WHO脱退を表明したのだ。
私は、トランプ大統領が4月8日にWHOへの資金拠出停止を表明した際にも、『なぜWHOは中国に牛耳られたのか…? コロナ危機のもう1つの真実』と寄稿し、アメリカがWHOから離れれば離れるほど、中国の影響力が強くなると指摘した。
その理由は、資金拠出額ではなく一国が平等に一票を持つWHOの意思決定構造では、国数の多い発展途上国の発言力が大きいからだ。そして、今日の中国は、発展途上国に対し、マスク外交だけでなく、輸出入の大きさでもアメリカに匹敵もしくは上回る経済的影響力を持っていると説明した。