「抜け駆け」は許さない!危機的状況で強化される「コスト意識」とは

自粛警察はいかにして生まれるか
堀川 晃菜 プロフィール

「物理的な距離を縮められないことで、共感は削がれやすくはなるとは思います。信頼の基本は、やっぱり対面のコミュニケーションにあって、ポジティブな共通体験(助け合った経験など)を重ねることで、信頼関係は強いものになっていきます。そのプロセスは生きものとして普遍的なもので、社会がどんなに変化しても変えられません。

だからこそ、直接的なコミュニケーションの代替として現代文明を“うまく使う”ことを真剣に考えるべき時が来ているのだと思います。どこまでオンラインで代替できるのか、できないのか。その限界を見極めて、賢く使いこなせるようにしていく。その最中に、いま私たちはいるのでしょう」

直接的なコミュニケーションはどこまで代替できるか Photo by Matheus Ferrero on Unsplash.

弱みを自覚することで強くなれる

人間どうしが物理的な距離をとらなければならいパンデミックのような状況は、信頼関係を築くには明らかに不利だ。だからこそ人間だけが持つ理性的な「共感」をどう使うかが問われると長谷川氏は強調する。

「人間は他人の状況や他人の思いに、時間や場所を越えて共感できる生きものです。だから歴史上の話にも、遠い国の出来事にも思いをはせることができる。そのこと自体が、すごいことだと私は思います。

でもその裏返しがあるのも事実です。『できる』ということは『しない』という選択肢が常にあって、その舵をとるのは自分です。そのことを皆が自覚して、いま自分はどっちに傾いているのか、それは善なのか悪なのか、自分が本当にやりたいことなのか──意識して考えると、対処の仕方も変わってくると思います」

長谷川眞理子氏

2020年6月末時点で、COVID-19の死亡者数は、国内で970人を超え、世界では50万人に迫っている。感染者数は全世界で1000万人に達し、なおもその数は増え続けている。これほどの人が人生を奪われ、苦しい思いをしている人が大勢いるのに、何の教訓も得ないで終わらせるわけにはいかない。

私たちがこの先の未来に、より寛容な社会を築くことができなければ、後に振り返ったとき「人類はこの危機を乗り越えて強くなった」とは言えないだろう。そしてまた新たな危機に直面したとき、私たちは人智を結集させて挑むことができるだろうか。それは自分たちの「共感の使い道」に委ねられていることを胸に刻みたい。

【注】
※1 保健医療に関する社会的スティグマとは、ある特定の特徴をもつ個人や集団を、ある特定の病気と否定的に関連付けること。特定の人々が疾患と直感的に結びつけられることでレッテルを張られ、差別を受け、阻害され、社会的地位を損なわれる。詳しくはこちら:新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関する社会的スティグマの防止と対応のガイド(ユニセフ)

※2 新型コロナウイルスの3つの顔を知ろう!~負のスパイラルを断ち切るために~(日本赤十字社)

※3 ラットにおける痛みの情動伝染について
Bartal et al. (2011) Helping a cagemate in need: empathy and prosocial behavior in rats. Science 334: 1427-1430

※4 飼育下におけるチンパンジーの共感について
Campbell and de Waal (2015) Chimpanzees empathize with group mate and humans, but not baboons or unfamiliar chimpanzees. Proc. Biol. Sci. 281(1782)20140013.

※5 チンパンジーは順位の高い相手が何を見ているのか・見ていないかがわかる
Hare et al. (2000) Chimpanzees know what conspecifics do and do not see. Animal Behavior 59(4): 771-785.

※6 ヒトの社会的共感は前頭葉で認知的に行っている
Masten et al. (2011) An fMRI investigation of empathy for "social pain" and subsequent prosocial behavior. NeuroImage 55: 381-388.

※7 社会科学と行動科学からみたCOVID-19のパンデミック
Bavel etal. (2020) Using social and behavioural science to support COVID-19 pandemic response. Nature Human Behaviour. 4: 460-471.