「抜け駆け」は許さない!危機的状況で強化される「コスト意識」とは

自粛警察はいかにして生まれるか
堀川 晃菜 プロフィール

人間は「コスト格差」が嫌い

「大事なのは、コスト(損失)が生じたときに、一番損をする人のコストをできるだけ小さく抑えることです。なぜなら、人間は、他者と比較してベネフィット(利得)に差がある状態よりも、コストに格差があることを嫌うからです。簡単に言えば、大儲けする人がいるのは許せるけれど、自分だけが大損するというのは嫌なのです。

だから、共通の利益がなるべく大きくなるようにすると同時に、コストを最小化して最低ラインを引き上げることが必要です。誰かが大損しなくて済むような関係をつくり、それを明示できれば、みんなが協力しやすくなると私は考えています」

コロナ禍においても、共通の利益のためにと団結を促すのであれば、人間が防衛本能として持つ「コスト意識」にもっと注意を払うべきなのかもしれない。長谷川氏の次の言葉が印象的だった。

「政府が一斉の休校措置をとりましたが、その時点ではあまり科学的な根拠はなかったと思います。ただ、科学的な根拠が出そろわない段階でも、政府がそのような判断を下した理由を明確に説明していれば、より納得感は得られたのではないでしょうか。

たとえば、『子どもは絶対に守るべき存在だから』というメッセージを添えていれば、もう少し世の親たちからの共感も得られていたかもしれません」

子どもたちの姿が消えた小学校(2020年2月撮影) Photo by Getty Images

つまり、「みんなで克服しよう」というポジティブなメッセージが共通の利益を訴えるものなら、社会の財産である「子ども」を守るというのは、共通のコストに訴えるものと言える。ここで休校措置の是非については議論しないが、社会に団結を求めるメッセージの発信について考える契機にはなったように思う。

オンラインの壁をどう乗り越えるのか

今回のCOVID-19には「SNS時代のパンデミック」というもう1つの側面がある。オンラインの世界がここまで発達していなかったら、医療、経済、教育とあらゆる現場で事態はさらに深刻化していただろう。

しかし、他者への攻撃性という観点では、懸念も大きいと長谷川氏は指摘する。理性的な「共感力」の脆さと「危機」というトリガー、そこに「匿名性」が加わるからだ。

「本来、他者を攻撃するというのは、ものすごくハードルの高い行為です。面と向かって対峙すれば、やり返されて自分が傷つく可能性もある。自分の生死が脅かされるような、よほどの状況でない限り、相手を傷つけたり命を奪ったりする行為には及ばないはずです。

でも、ネットの世界では、匿名で自分を伏せて守りながら、野放図に言いたいことを言えてしまう。他人を攻撃することに歯止めがかかりにくくなっていると思います」

Photo by Sadman Sakib on Unsplash

いま「新しい生活様式」としてオンラインの活用がますます求められているが、利便性の裏にある負の側面には今一度、目を向けなければいけない。他者への非難や攻撃はなくなるものではないだろうが、あまりにも連鎖的に増幅しては人々の間の溝は深まるばかりだ。

果たして、長谷川氏が「共感の基盤」だと語る“信頼”の醸成はオンラインのコミュニケーションで代替できるのか。