6月 6日 スイスの物理学者H・ローラー誕生(1933年)

科学 今日はこんな日

地球のみなさん、こんにちは。毎度おなじみ、ブルーバックスのシンボルキャラクターです。今日も "サイエンス365days" のコーナーをお届けします。

"サイエンス365days" は、あの科学者が生まれた、あの現象が発見された、など科学に関する歴史的な出来事を紹介するコーナーです。

1933年の今日、スイスの物理学者で、走査型トンネル顕微鏡(Scanning Tunneling Microscope : STM)を開発し、その功績によりノーベル物理学賞を受賞したハインリッヒ・ローラー(Heinrich Rohrer、 1933-2013)が誕生しました。

ローラーは、スイス北東部のザンクト・ガレン州のブフスに生まれました。18歳で、アインシュタインも学んだ、スイスの自然科学と工科の名門である、チューリッヒ工科大学(正式名は「スイス連邦工科大学チューリッヒ校」、ETH)に入学し、ヴォルフガング・パウリのもとで物理学を学びました。博士課程では超電導の研究に携わり、静寂な環境を必要とすることから、しばしば実験は深夜に行われたということです。

兵役ののちに結婚、新婚旅行先のアメリカで、そのまま大学の研究員を経て、IBMに就職してしまいました。IBMには1997年まで在職していましたが、その一方でカリフォルニア大学などで核磁気共鳴の研究などを行いました。

1970年代後半、母国スイスの代表的な都市チューリッヒにある、IBMの研究所に在籍していたドイツ人物理学者ゲルト・ビーニッヒ(Gerd Binnig、1947- )に声をかけ、共同で走査型トンネル顕微鏡の開発に取り組み、1982年に実験に成功しました。1983年には、構造が不明だったシリコンの表面の構造を解明する、重要な手がかりを発見しました。

これらの功績から、ローラーとビーニッヒは1986年のノーベル物理学賞を受賞しています。

【写真】 共同開発者のゲルト・ビーニッヒ photo by gettyimages

走査型トンネル顕微鏡とは、先端を尖らせた探針を用いて、物質の表面をなぞるように動かして表面状態を拡大観察する顕微鏡です。非常に微小な世界において発生する物理現象であるトンネル電流を使って、対象表面の原子レベルの電子状態、構造など観測するものです。一般的には、導電性物質、半導体性物質の表面の観察に使われています。

彼らの研究・開発によって得られた技術は、分子どうしや高分子内の離れた部分の間に働く電磁気学的な力を利用した、原子間力顕微鏡(AFM)の開発のベースともなりました。原子間力走査顕微鏡では、トンネル電流を用いないため、絶縁体の表面観察にも利用できます。

1980年代、製品化されはじめたころの走査型トンネル顕微鏡 photo by gettyimages

走査型トンネル顕微鏡を支えるトンネル電流は人の知覚の限界を超えた世界の現象で、量子力学の知識がなければ理解できない、とされています。量子の世界を観察できるこれらの顕微鏡は、今や、光学ディスクやフラッシュメモリなど、ごく身近な物の製造や検査に必須のものとなっています。

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