日本を代表する憧れリゾートの一つである星野リゾートは、なぜこれほどまでに多くの人を引きつけるのでしょうか? ホテルジャーナリスト・せきねきょうこさんならではの視点でその魅力に迫ります。今回は、神秘の森と渓流に寄り添う「星野リゾート 奥入瀬渓流ホテル」をご紹介します。

森と渓流の瀬音に包まれる散策に
未知なる自然を再発見

自然の厳しさに耐え、滔々と流れる美しい清流。渓流沿いを歩くだけで清々しいマイナスイオンに包まれる。

十和田八幡平国立公園に属する奥入瀬渓流とは、青森・秋田の両県にまたがる十和田湖・子ノ口から、焼山までの約14kmの流れを指しています。一般的に渓流の定義は「川底に砂利や大小の自然の岩があり、並行して遊歩道が造られ、林道や国道が走り……」などとされ、奥入瀬渓流はまさにその通りの姿であり、さらに神秘性も感じられます。

日本を代表する美しい流れで、豊かな樹木や滝もあり奇岩・奇勝が素晴らしく、国指定の特別名勝及び天然記念物にも選ばれているのです。

約14kmにも及ぶ渓流は、起点となる十和田湖と共に特別名勝、天然記念物、国立公園にも指定される日本有数の景勝地。

そして、この十和田・奥入瀬エリアに観光が始まるきっかけとなったのは1903年、法奥沢村(旧十和田湖町・現在は十和田市に合併)の村長であった小笠原耕一氏により、渓流沿いに林道が開削され、散策が可能になったことによる功績だったと記されています。
(参照:奥入瀬フィールドミュージアム/http://oirase-fm.com/

日の出とともに徐々に光が差し込んでくる早朝の奥入瀬渓流。朝もやがかかる神秘的なこの様子を、ガイドさんは「森の目覚め」と称した。

四季折々の彩りを魅せる森の木々、澄んだ渓流の瀬音、小鳥のさえずりなどが響く自然界に癒やされながら歩く遊歩道の散策ルートは、木々の合間を縫うように渓流に沿って造られ、先へ先へと興味が尽きません。歩きながら、風に揺れる葉音にも足を止め、たまに聞こえる動物の鳴き声や、木漏れ日の美しさにも感動しながらの散策です。

渓流にある滝の数は無数。写真は落差20mの「雲井の滝」。3段になって流れる滝の近くまで行け、勇壮な迫力がある。

奥入瀬渓流には所々に変化のある自然の姿の見どころがあり、銚子大滝、阿修羅の流れ、雲井の滝など、名のある幾つもの景勝地が存在しています。「星野リゾート 奥入瀬渓流ホテル」は、そんな自然のままの渓流沿いの一角、ドラマチックな森の裾野に佇んでいます。

奥入瀬渓流は水量が豊かにも関わらず流れは穏やか。ここそこに点在する苔生す岩には生命が宿り、5月中旬頃には岩の上で花を咲かせる植物もあると言う。

本州の最北端、青森県の森の中という雪深い寒冷地でもあることから、夏と冬では訪れた時の過ごし方が違ってきます。寒い地域にあるホテルは、寒い時にこそ輝き、十分に楽しめるよう準備が整っているもの。極寒の十和田・奥入瀬エリアでは、奥入瀬渓流の氷瀑や八甲田山の樹氷など、冬にしか観ることのできない風物詩も感動的です。

ただ、私が奥入瀬渓流へ向かった今回の目的は、渓流沿いの森の中を歩く“渓流散策”でしたから、季節は東北の秋の始まり、9月初旬でした。東京ではこの時期、まだまだ暑さとの戦いですが、奥入瀬の森は、渓流の流れが放つマイナスイオンに包まれ、深い森のひんやり感が心地いい散策となりました。

深い森の一角、美しく差し込む陽光に緑が輝きをみせる。写真は夏から秋へと向かう狭間の9月。次回は森が勢いづく初夏の新緑風景を観たい。

「奥入瀬フィールドミュージアム(http://oirase-fm.com/)」には、“これまでの奥入瀬は、典型的な景観見流し型観光地として、あるいは「ただ歩く」だけのアウトドア・スポットとしての評価しか受けてきませんでした。しかし、自然のなりたちや芸術性を鑑賞するのに、これほど適した景勝地は他にあまりありません”と書かれています。

興味深いと思いませんか? 山や森はとても好きですが、知識の乏しかった私は、ホテルでガイドさんを依頼し、一緒に歩きながら、時には足を止め、自然の成り立ちや不思議を分かりやすく教えてもらったのです。

東北地方でありながらまるで熱帯・亜熱帯の“雲霧林”に生息する植物を見ているよう。シダ類、キノコ類、苔類、すべてが多雨林ならではの生態系、地球からの贈り物。森は木々だけではなく、岩盤や地面に目を向けると別世界が見えてくる。

歩き方の方法として、前述のサイトには「樹木・草花・シダ・コケ・キノコ・地層といった自然の構成物をあたかも博物館や美術館で作品を鑑賞するように」とありましたので、その通りに歩いたお蔭でドキドキするほど面白い場面や、森の不思議と出くわしながら、渓流のことまで知るに至りました。“そこにある自然”がこれほど興味深く、知らないことだらけだったことにも気づき、自然界の放つパワーや森羅万象にただ感動していました。

散策プログラムで人気コースを歩く「奥入瀬ガイドウォーク」に参加。朝食前に参加した「渓流モーニングカフェ」では、途中で温かな飲み物が用意された。

最初はうわべの知識でも、次はこれ、その次はこれをもっと調べたいと、奥入瀬渓流歩きに嵌りそうです。この森や渓谷がなぜ“天然の自然誌博物館(フィールドミュージアム)”と呼ばれるのか、少しわかったような気がしました。

奥入瀬渓流ホテルから森を抜けると青森県十和田市と秋田県鹿角郡小坂町にまたがる十和田湖に出る。最大水深326.8m。北東に奥入瀬渓流、北には八甲田山という風光明媚な観光地。

2013年、この奥入瀬渓流は日本蘚苔類学会により全国19番目の「日本の貴重なコケの森」に指定されました。そういえば、散策中に見たこともない美しい苔が幾つもあり、苔の生態の神秘にも触れることができました。次の機会には、美しい新緑の時を選び、気合を入れて新芽の薫る森を十和田湖までの約300分、ガイドさんと共に歩いてみたいと願っています。