慶應大学教授が断言!「私たちに見える世界は本当の世界ではない」

量子が支える宇宙の本質
松浦 壮 プロフィール

「世界の想像図」

皆さんの視界に映っているのは、本に反射した(と想像される)光が目に飛び込み、網膜に分布した視細胞が光に反応して電気信号を脳に送り、脳がその信号を処理することによって作り出された、いわば仮想現実です。

本からもたらされるのは視覚情報だけではありません。指がページをめくるときに生じる圧力情報と、その際に発生する音情報と、本から出る糊の成分の情報が、それぞれ触覚、聴覚、嗅覚によって捉えられ、電気信号に変換されて脳に伝わります。

人の脳は、それぞれのセンサーからやってくる電気信号のすべてと整合するように「本と呼ばれる物体の想像図」を構築します。本の存在にリアリティを感じるのは、この想像図が五感を通じて得られた情報のどれとも矛盾しないからです。

【写真】本の存在がリアルなのは、五感で得られた情報と想像図が矛盾しないため
  本の存在がリアルなのは、五感で得られた情報と想像図が矛盾しないため photo by gettyimages

これは私たちが認識しているすべての物事について言えます。極論でもなんでもなく、私たちは最初から「世界そのもの」など見てはいません。

見ていると思っているものはすべて、五感を通じて行われた「測定」と矛盾しないように構成された世界の想像図です。

五感ではどうしても理解できない

こんなふうに思われるかもしれません。

「まあ、確かにそうかもしれないけどさ。何かがあるからその通りに見えてるんでしょ? だとしたら、見えた物はそこにある【物の本当の姿】だと思っても問題ないじゃないか」

ごもっともです。確かに「見えている本」は感覚器官と脳が生み出した想像の産物かもしれませんが、そこに「本」と呼ばれる何物かがない限り、そんなものが見える道理はありません。自分が見ている本が他の人には見えないというなら(いろいろな意味で)問題ですが、どうやら他の人にも同じ本が見えているようです。

誰でも同じ本として見える
  誰でも同じ本として見えている photo by gettyimages

もし五感が信じられないと言うのであれば機械を使っても構いませんが、精度が変わるだけで結果は変わらず、誰が観測しても同じようなものが見えるでしょう。

であれば、現実問題として、

「見えている世界は本当に世界だろうか? う〜ん、考えても答えは出ないし、見
えたものはそのまま世界だと思っていても不都合はないし、それでいいんじゃない
かな」

と考えても何ら問題はないように思えます。

ですが、この無邪気な世界観が通用した平和な時代は、20世紀前半に量子が発見されたことによって終わりました。

拙著『量子とはなんだろう』で詳しく述べますが、量子というやつは位置や速度すら定まっていないのです。

位置や速度は私たちの直感的な世界認識の根幹です。それらを使って表現できない「量子」を私たちの通常の認識に収めるのは、かなり無理のある作業です。