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テスラは大丈夫か? イーロン・マスク「変質疑惑」に信者騒然のワケ

オルトライト側に転じるのだろうか…

「レッドピルを飲め!」

2020年5月31日、Space Xの宇宙船“Crew Dragon”がフロリダ州のケネディ宇宙センターから打ち上げられ、翌31日には、予定通りISSとのドッキングを果たした。今回の“Crew Dragon”にはNASAの宇宙飛行士が2名乗船しており、有人宇宙飛行としてもSpaceXは民間企業初の偉業を成し遂げた。SpaceXの創業者であるイーロン・マスクは、これでまた起業家としての名声を高めたことになる。

だが果たしてこの新たな名声は、彼という人物に対する疑念を払拭するものになるのだろうか。というのも、ごく最近マスクは彼の信奉者たち――マスクティアズ(Muskteers)と呼ばれる――を軽いパニックに陥らせていたからだ。

ロケットの打ち上げから2週間ほど前の5月18日、突然、彼は、「レッドピルを飲め!」という謎めいたツイートを流し、そのツイートにイヴァンカ・トランプが即座に「飲んだ!」と応えていたことから、「イーロン・マスク、お前もか!」という空気を生み出していた。

お前もカニエ・ウエストのようにレッドピルを飲めというのか、お前もまた、ピーター・ティール同様、トランピアンだったのか……。彼のファンの間で飛び交ったのはこのような疑念であり、その結果、Teslaを愛車にしている人びとは、このまま果たしてTeslaに乗り続けていいのだろうか、と戸惑いを隠せなくなった。

もっとも、これだけ伝えても、なんのことやら、さっぱりわからない? という人たちも多いことだろう。細かい経緯については、これから記していくつもりだが、最初に一つ言っておくべきは、どうやら2020年の現在、テクノロジーもアメリカにおける文化戦争の中に組み込まれてしまったということだ。そう、前回も触れた、民主党vs共和党の、リベラルvs保守で繰り広げられる「日常の諍い」たる文化戦争だ。裏返せば、テクノロジーとは、今やそれくらい、日常に浸透し、現代文化を形作る主たる構成要素となったということだ。

 

オルトライト(Alt-Right)の象徴

ということでまずは、問題となった「レッドピル」から取り上げよう。これは、1999年に公開され一世を風靡した映画『マトリックス』の中で、物語の転換点で現れた「赤いカプセル薬」のことを指している。その場面では、赤い「レッドピル」だけでなく青い「ブルーピル」も現れ、そのどちらを飲むかで以後の展開が全く変わってしまう、いわゆる「ポイントオブノーリターン」のシーンにでてくる作劇上のガジェットだ。

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問題のシーンは、キアヌ・リーブス演じる主人公のネオが、自分のいる世界の「真実を知る」ことを選ぶかどうか、という場面だ。ブルーピルを飲むことは、真実に目を背けるものの、しかし幸福なウソ=幻想の中で生きることを選ぶことにつながる。一方、レッドピルを飲むことは、残酷な真実に目を開き、だがその分充実した現実=リアリティの中で生きることを意味している。

もちろん、真実を求めていたネオはレッドピルを飲みこみ、彼が現実と思っていた世界が実はサイバー空間の中のバーチャル・リアリティでしかなかったことを知る。レッドピルを飲んだ結果、目を覚ましたネオが知ったことは、自分たちは、眠った状態にされたまま、ただ生命エネルギーを抜き取られるだけの、いわば発電機のような存在として搾取されていた事実だった。その事実を知ったネオは、この現実世界の中で自分たちの自由を求め、解放のための戦いに参加していく。こうして定番の反逆の物語が続いていく。興味を持った人は、サイバーカルチャーといえば第一に名前の挙がる作品でもあるので、一度はご覧になるのを勧めておく。