ひとはなぜ暗黒に啓蒙されたがるのか?

『暗黒の啓蒙書』入口手前“超”入門
暗黒の啓蒙人 プロフィール

「新中国は未来から到来する」

それにしても、ランドにせよモールドバグにせよ、どうして上海なのでしょう?

その謎の深層を垣間見るには、『現代ビジネス』に掲載された水嶋一憲さんによる「中華未来主義」についての記事をご覧いただくのがよいかと思います(「中国の『爆速成長』に憧れる〈中華未来主義〉という奇怪な思想」)。

「中華未来主義」とは、民主主義や人権を掲げる西洋に比べ、人々の権利を制限した権威主義的な体制を通じて技術革新や生産性の向上を図る中国やシンガポールにこそ未来があるのではないか、とする考え方のことです。

ランドに曰く、「新中国は未来から到来する」。西洋社会の衰退を尻目に、中国の権威主義体制下の資本主義は、テクノロジーの革新とともに爆発的な成長を遂げるであろう、と。

改革開放以来の“爆速”経済成長もそうですが、「世界初のゲノム編集赤ちゃん誕生」などのトピックを想起するにつけ、思わず「確かにそうかも」と納得しそうな断言ではあります(もっとも、当の研究をリードした准教授は、のちに研究不正の廉(かど)で中国当局に処罰されることになるのですが)。

もちろん、こうした考え方に対する批判はあります。「西洋は『大聖堂』のせいで技術革新が減速させられている」なんて被害妄想だ、西洋で実現できないお前らの欲望を中国に投影すんなや、などなど。

コロナ禍にみまわれた中国の岸辺で、いまランドは何を思うのでしょうか(How are you keeping, Nick?)。

 

資本主義のリミッターを外して「加速」せよ

こうした、資本主義社会のオルタナティブを模索する言動の背景には、「加速主義(accelerationism)」と呼ばれる思想があります。

加速主義にはいくつかの流派があるのですが、その今日的な源流は、ドゥルーズ+ガタリから着想を得たランドその人です。

加速主義をアクセル踏んで要約するなら、「資本主義のリミッターを外してイケイケで加速すれば、今とは違った可能性も見えてくるんじゃない?」ということになるでしょうか。そしてテクノロジーの革新こそ、資本を蓄積し(生産性を向上させ)、資本主義をその極限まで推し進めるエンジンになる、と。

だから、そうしたプロセスを減速させる政治的手続きや、人権や平等への配慮なんて邪魔でしかない、と言い出す人も出てくるわけですね。

「そんなことしたら大変なことになるんじゃない? 最近ちょくちょく『新しい階級社会』なんて話も聞こえてくるし……」と思うのが“真っ当な”理性。しかし、「悪くなるほど良くなる」(加速主義の名づけ親・ベンジャミン・ノイズの総括)と考えるのが彼らのスタイルなんです。

今回のコロナ・ショックで一部の加速主義者が色めき立った理由も、これでいくらか察しがつくでしょうか。

関連記事