ひとはなぜ暗黒に啓蒙されたがるのか?

『暗黒の啓蒙書』入口手前“超”入門
暗黒の啓蒙人 プロフィール

シリコンバレーの「NRx」

これを文字通りに「やってみた」人たちがいます。「新反動主義(Neoreactionary)」と呼ばれる一群の人たちです(「NRx」なんて略したりするのですが、正直これはカッコいい……)。

新反動主義については、近代以後に確立したリベラルな価値観――民主主義、人権、平等、ヒューマニズム……――を否定し、国家による介入なしの自由な経済活動を志向する思想、くらいに掴んでおけばよいと思います。

その主な担い手は、シリコンバレーのリバタリアン起業家たちです。

例えば、PayPal創業者のピーター・ティール。彼はスタンフォード大学時代、保守系新聞の編集人としてキャンパス内の反ポリコレ運動を主導していたという前史もあるようですが、そんな彼の考え方を象徴的に表すのは、なんといっても「私はもはや、自由と民主主義は両立可能だとは考えていない」というフレーズでしょう。彼にとって、市場の自由を阻害する国家の介入など、あってはならないものなのです。

そのうえでどうするのかといえば、端的に、この民主主義社会からの「イグジット」を目指すのです。

「じゃあその『イグジット』ってどうやるの?」と思いますよね。例えば元Googleエンジニアのパトリ・フリードマン(新自由主義経済学者ミルトンの孫です)は、「海上入植(シーステディング)計画」といって、公海上にリバタリアンたちの独立共同体を設立するプロジェクトを立ち上げるのですが、ティールはそのプロジェクトに出資したりしています。

 

新反動主義最恐のシス卿

そして“新反動主義最恐のシス卿”(ランドの表現です)メンシウス・モールドバグことカーティス・ヤーヴィン。彼もまたシリコンバレーの起業家にしてエンジニアです。

モールドバグはティールによる啓蒙批判をさらに推し進め、「新官房学(ネオカメラリズム)」なるものを提唱します。

新官房学の考え方の下では、国家は一つの企業であり(gov-corp)、そのトップにはCEO的な経営能力を有した者が就き、株主であり顧客である住民たちにサービスを提供します。

そしてそのサービスが芳しくないと感じたならば、株主にして顧客である住民は、声を上げるのではなく(それだと普通の民主主義ですからね)、黙って別の国家=企業へイグジットするべし、と。

ちなみに、モールドバグが言うには、「民主主義がまったく伴わないままに、市民に対して非常に質の高いサービスを提供している」例としては、18世紀プロイセンのフリードリッヒ大王の治世、21世紀の香港、上海、ドバイが挙げられるのだそうです。

(もう一つちなみに、モールドバグの推しCEO第1位は、かつてはスティーブ・ジョブズ、今はイーロン・マスクだそうです。)

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