テラハ事件「極論ばかりのネット民」と「炎上で儲けるマスコミ」は反省を

情報社会の「新しいルール」をどう作るか
山口 真一 プロフィール

意外な結果だが、その背景には誹謗中傷を書く人の「動機」が関係している。

ネット上で誹謗中傷や非難を書く時、多くの人はふざけてやっているのではなく、本気で「こいつ許せない」「失望した」と考えて書いている。いわば、各人が各々の価値観で持っている「正義感」に基づいて、「自分はいいことをしているのだ」と思いながら他人を攻撃しているのであるvi

自分が正しいと思い込んで誹謗中傷を書きこむ人にとって、実名かどうかはあまり関係がない。だから、実名制を敷いて全体的な表現の萎縮を生み出しても、その本当の狙いである「誹謗中傷の抑制」という効果は限定的になってしまうのだ。

Photo by iStock
 

「誹謗中傷」は誰が判定するのか?

また、このようにネット全体に及ぶ広範な法規制は、著しい表現の萎縮に繋がるだけでなく、もうひとつ危険なポイントを持っている。

それは「slippery slope(滑りやすい坂)」という現象だ。最初の比較的小さな決定が、議論されたり時間が経っていったりする中で、やがて許容できないような巨大でネガティブな結果をもたらすことを指す。

例えば誹謗中傷を抑制するために、ネット上の誹謗中傷に特化した「サイバー侮辱罪」のようなものを導入し、名誉毀損を非親告罪化したり、罰則を大幅に強化したりしたとしよう。そのような法規制は、法律が誕生した直後は適切に運用され、良い効果をもたらすかもしれない。

しかし、10年後、20年後にもその法律は正しく運用されるだろうか。いままさに議論になっているように、「誹謗中傷」の定義は非常に難しいものである。もしかしたら10年後、20年後に強権を振るう政権が誕生するかもしれない。そうした時、「誹謗中傷の罪」は政府によって恣意的に決められるようになり、法律は拡大解釈されて、容易に政敵への攻撃に使われるようになるだろう。

実際、フェイクニュースに強い規制を設けている諸外国では、早くも法律が政敵への攻撃に悪用されているとの指摘がある。このような法律を施行する時には、規制の対象を厳密に絞り切れるか、そして中長期的に拡大解釈されないかについても綿密に検討する必要があるのだ。

関連記事

編集部からのお知らせ!

おすすめの記事

ABJ mark

ABJマークは、この電子書店・電子書籍配信サービスが、著作権者からコンテンツ使用許諾を得た正規版配信サービスであることを示す登録商標 (登録番号 第6091713号) です。 ABJマークについて、詳しくはこちらを御覧ください。https://aebs.or.jp/