「細菌なんて下等な生物だ」という思い込みが「大きな間違い」な理由

目に見えない「多様性」を考える
更科 功 プロフィール

細菌やアーキアの「すばらしい多様性」

私たちの体の大部分は、水と有機物でできている。だから生物は、生きていくために有機物を手に入れなくてはならない。

それには、私たち動物のように、他の生物の有機物を利用する(他の生物を食べる)という方法もある。しかし、そういう方法を使えるのは、周囲に自ら有機物を作り出す生物がいるときだけだ。

つまり、有機物を作れる生物が、すべての生物の土台となっているのである。

真核生物の中で有機物を作れるのは、植物や藻類などだ。これらはすべて、酸素発生型の光合成をしている。

一方、細菌には、酸素発生型の光合成をするものもいるが、酸素を出さない光合成をするものもいる。紅色硫黄細菌や紅色非硫黄細菌や緑色糸状細菌だ。さらに、やはり非酸素発生型の光合成だが、これら3つとは異なるタイプの光合成をする緑色硫黄細菌やヘリオバクテリアもいる。

さらに、光合成ですらない化学合成という方法で有機物を作る、亜硝酸菌や硫黄細菌などの細菌さえいる。

アーキアにも、光合成をするものがいる。ハロバクテリアというアーキアは、真核生物や細菌より簡単なタイプの、酸素を出さない光合成をおこなっている。

また、メタン生成菌や亜硝酸菌などの化学合成をするアーキアもいる(亜硝酸菌と呼ばれるものには、細菌に属するものとアーキアに属するものがいる)。どうやら、有機物を作るしくみといった、生物にとって基本的な特徴では、真核生物よりも細菌やアーキアのほうが、多様性が高いようである。

【写真】シチリアの硫黄結晶にも関与
  イタリア・シチリア島の硫黄結晶。結晶化の過程で硫黄細菌が関与するといわれる photo by gettyimages

つまり、真核生物の多様性は、基本的な特徴が同じ範囲の中で、いろいろな種類のものがいるにすぎない。これは、細菌やアーキアよりも、多様性が低いということではないだろうか。

真核生物であるクジラやセコイアやアメーバなどのすばらしい多様性は、お釈迦様の掌の上で踊っているようなものかもしれない。きっと、お釈迦様の掌から外へ飛び出したのは、真核生物ではなく、細菌やアーキアのほうなのだ。

「下等」なのは誰?

マイアの話は、過ぎ去った昔ばなしではない。マイアのような意見は、現在の日本でもしばしば耳にする。たとえば、ヒトや哺乳類は「高等」な生物で、アメーバや細菌は「下等」な生物だという考えなどだ。

そういう考えの根っこは、マイアの考えと同じだろう。目に見える多様性だけに注目して、目に見えない多様性は忘れてしまっているのである。

細菌やアーキアは、体は小さいけれど、莫大な鉄鉱床を作ったり、酸素を含む大気を作ったりして、地球や他の生物に大きな影響を与えてきた。

体が大きかろうと小さかろうと、それぞれの生物がお互いに影響し合い、さらに生物と地球が影響し合い、その結果として、現在の生物と地球が存在するのである。

  地球の息吹が感じられる、アメリカ・イエローストーン国立公園の間欠泉「グランド・プリズマティック・スプリング」。美しい色彩はシアノバクテリアのによるもの。沿岸にはバクテリアが積み重なった「バクテリアマット」が形成されている photo by gettyimages

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