「細菌なんて下等な生物だ」という思い込みが「大きな間違い」な理由

目に見えない「多様性」を考える
更科 功 プロフィール

交配できれば同じ種となる「生物学的種概念」

アーキアは、カール・リチャード・ウーズ(1928-2012)というアメリカの生物学者によって、1977年に提唱された。しかし、アーキアというグループを作ることには反対意見が多く、なかなか認められなかった。反対した代表的な人物としては、エルンスト・マイア(1904-2005)がいる。

  エルンスト・マイア(左)とカール・リチャード・ウーズ photos by gettyimages

マイアは、ドイツ出身でアメリカに移住した進化学者で、多くのすぐれた業績を残した。また、生物学的種概念を提唱したことでも有名だ。「種とは何か」という問いに答えることは難しいが、その答えの1つをマイアは提出したのだ。

種とは、遺伝子を交流させている個体の集まりで、他の種とは遺伝子を交流させない。つまり、種と種は生殖的に隔離されている。これが、マイアが提唱した種概念である。

しかし、生物学的種概念は、無性的に繁殖をする生物には使えない。

たとえば、細菌は、まれにしか個体同士で遺伝子を交換しない。通常は、遺伝子を交換せず、個体が分裂して増えていくだけである。

こういう生物は、基本的に遺伝子を交流させないので、生物学的種概念ではうまく種を定義することができない。

また、化石にも、生物学的種概念は使えない。ほとんどの化石には遺伝子が残っていないので、化石から遺伝子交流の有無を推測することはできないからだ。

図】マイアの概念と適応不可例
  マイアの概念と、その概念が適応できない例

このように、使える範囲に制限はあるものの、生物学的種概念はわかりやすいので、使える場面では広く使われている。この概念を生んだことで有名な進化学者であるマイアが、ウーズの意見に噛みついたのだ。

大物進化学者が「アーキア」に反対した理由

マイアの意見はこうだ。

細菌とアーキアのあいだの違いは、それらと真核生物の違いに比べれば、非常に小さい。だから、わざわざアーキアという分類群を作る必要はない。

また、知られている種数で比べれば、真核生物の200万種に対し、細菌は数千種、アーキアは数百種である。こんなに種数の少ないアーキアと、素晴らしく多様な真核生物を、対等に扱うのはおかしい。

たしかに、マイアの意見ももっともだ。私たち真核生物は、素晴らしい多様性を持っている。地中を掘り進むモグラもいれば、空を飛ぶ鳥もいる。地面をちょこまか歩く小さなアリもいれば、大洋をゆったりと泳ぐ巨大なクジラものもいる。

真核生物のこのような多様性を目の当たりにすれば、誰でも崇高な気持ちになるのではないだろうか。

それと比べて、アーキアや細菌の形は球状か棒状か糸状で、みんな似たり寄ったりだ。大きさだって小さくて、1マイクロメートル(1ミリメートル=1000マイクロメートル)ぐらいしかない。大きくても10マイクロメートルほどだ。私たちの眼は、50マイクロメートルぐらいのものまでしか見ることができないので、アーキアや細菌(のほとんど)は私たちには見えない。

どう考えても、細菌やアーキアに大した多様性はないだろう。

これまでの分類では、生物を真核生物と細菌(原核生物)の2つに分けていた。そもそも大した多様性もない細菌が、素晴らしく多様な真核生物と、対等に肩を並べるだけでもおこがましいのだ。

  原核生物である光合成型バクテリアの一種(左下)とアメーバから人間まで、さまざまな真核生物 photos by gettyimages

ところが、それにくわえて、たった数百種のアーキアという分類群まで新しく作って、こちらも真核生物と対等にすると言うのだ。とんでもない話だとマイアが思ったのも無理はないだろう。