2020.05.28
# 教育

「教師が面倒を見過ぎない」ロッテ佐々木朗希の母校の「自走」する教育

新しい教育のかたち「大船渡学」の効果【後編】
石川 一郎 プロフィール
 

新沼君の挑戦はなお続く

次に興味を持ったのは、ILC(国際リニアコライダー)の東北誘致。

ILCの認知度を上げようと「大船渡学」で子供向けの先端科学講座の開催を計画する。なかなか受け入れてくれるところが見当たらなかったが、なんとか学童保育での開催を思いつき、子どもたちに向かって熱くILCの素晴らしさを語ったのだ。理解してもらうために、図を使ったり、なるべく簡単な言葉を選んで説明したとのこと。それでもなかなか子どもたちは理解してくれなかったが、何人かの子どもは興味を持ってくれたらしい。

興味を広げるのに適している方法は、言葉にして人を巻き込むことだという、先生たちのさりげないアドバイスが背景にあったようだ。

新沼君がここで得た力は何か。

物事を人に説明するには

1.「その物事を深く理解している」
2.「伝えるのにあたって、物事を俯瞰的に構造的にみる」
3.「伝えるポイントを図にしたり、伝わりやすい言葉に落とし込んでいく」

といった力が必要なのは、読者の皆様もおわかりだろう。

図にして説明する力を身に着ける

この3つの力を東京大学の入試問題を思い浮かべながら考えてみる

「ウニやヒトデなどの棘皮動物は、五放射相称の体制を有するにもかかわらず、左右相称動物の系統にも属する。このことは、発生過程を見るとよくわかる。それは、どのような発生過程か、2行程度で答えよ」(令和2年 東京大学前期試験 理科・生物)

東京大学の入試では、この問題のように論理的思考力や過不足ない表現力が求められる。

そんな力が実は、この大船渡学で獲得することが出来たとは考えられないだろうか

「ホヤ」のエキセントリックな形に興味をもち、そこから思考を深めていった大船渡学での経験は、「ウニ」や「ヒトデ」の体制を掘り下げていく、この問題の意図と合致していると言える。

何のために東大に行くか

新沼君は何故、東京大学を目指したのだろうか?

「東大で何をやりたいと思ったの?」

「AI(人工知能)の研究をしたいと思いました」

「調べたところ、AIを研究するのは東大か京大がよいということで東大を目指すことにしました」

新沼君の合格後のテレビのインタビューをみた。やりたいことをさらっと爽やかに語る姿が印象的だった。とかく、東大に入ることが目標になってしまいがち。東大合格が主ではなく、ちゃんとやりたいことがあるから東大。当たり前のようで難しい。

新沼君が東大を目指そうと考えたころ、高校で上位者指導、「べん部」が始まる

この「べん部」(お勉強とお弁当の「べん」らしい)と言われる上位者指導が、ちょっと一風変わってる。校内の居心地良さげなラウンジでお弁当を食べながら、いわゆる「お勉強」ではないこと、たとえば、論理トレーニングを皆で考えたり、英文和訳というより日本語の運用力を問うような奇問、そうかとおもえばホワイトボードに貼られた思考実験の問題を考えたり。

問題集のような勉強はときどき。最後の方には、生徒のほうが講義し、皆からあーでもない、こーでもないと議論になったり……。いつしか、ホワイトボードの前で生徒たちが議論する風景が日常になっていく。

これが、学習コミュニティの形成、につながる。3年生の受験期になって、誰かが「わからない」に直面すると、学習コミュニティが活性化してあちこちでワイガヤが始まる。問題を解き合う教え合う生徒たちはもちろん、教室で授業をする生徒、生徒同士の面接練習がそこかしこで行われる。

それにとどまらず、「教員の専権事項」とも思われる志望理由書や小論文の添削を請け負う生徒まで現れた

ある生徒はこう語る。「勉強の内容を共有するだけでなく、勉強法の共有をしていました。先生にはあまり質問に行かなかったですね。職員室に行く前に友人たちで解決してしまいますから」先生主導の指導がなくても、自走する姿勢をもった集団があちこちで出来上がっていた。新沼君はその中にいた。

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