前回、岩手県の大船渡市にある県立大船渡高校の教育の取り組みについてお話させてもらった。
ロッテのドラ1右腕、佐々木朗希君の活躍で2019年に注目を浴びた公立高校であるが、同校の4年前からの探究型授業「大船渡学」が最近教育関係者の中で大変有名になっており、筆者も昨年大船渡の地を訪れて、大船渡学を見学し、そのユニークな取り組みの一面を前編で紹介した。
記事に対して、とても反響があり、今年同校から28年ぶりに東京大学・理科一類に現役合格した卒業生の新沼拓豊君を大船渡高校の先生にご紹介いただき、電話でインタビューをした。まずは、そのお話から後編はお付き合いいただきたい。
新沼君に聞くと、模試の成績は決してよくなく、最後の方でもE判定だったらしい。
そこから逆転して合格にいたった背景は当然のことながら気になった。
「東京大学に合格できたのは何故だと思う?」
「大船渡学が自分にとってはすべてです」
お、いきなり大船渡学。
「大船渡学のいいところは何?」
「そうですね、自由に学べることですかね。しばられることがないですから」
「自由に学べることがよい」と聞いても、何がいいのかわからないかもしれない。ましてや、「自由に学ぶ」ことで何故東京大学に合格できるのかは、もっと謎かもしれない。
しかし、実はここに今の教育の抱えている問題点がある。
大学受験を頂点として、必要最低限のものを無駄なく生徒に詰め込もうとしているのが、残念ながら現状の高校教育のやり方である。生徒が学習する上で興味を持つことであっても、点数という結果に結びつくものでないと、やわらかく排除されてしまうのだ。
生徒が「先生、もし~だったらどんなことが起こるのですか」の問いを発したとする。
「それはなかなか大事な視点だね。ただ、今学んでいることは~だから、そういった問いは大学に入ってからゆっくりと取り組んでみたら」といって教師にはかわされてしまう。
これは自分が生徒の時も、そして教師になっても経験した「学校あるある」なのだ。
新沼君の大船渡学は、「ホヤ」から始まる。
身近なもので興味あるものというお題に対して、彼は地元の名産品「ホヤ」を思いつく。何故かというとあのエキセントリックな見た目が興味深いとのこと。なるほど。それを引き出して、みんなに広めてみようと感じ、大船渡市のビジネスプランワークショップに参加してビジネスプランを練り上げる。
自分の身近で興味あること、から始まって、だんだんと話が膨らんでいったのだ。最初からビジネスプランを作成せよ、というお題が与えられていたわけでもないし、レポートの提出が義務づけられていたわけでもない。教師側からある意味、ゴールが設定されて、そこに指導されながら向かっていったわけではないのだ。
この状態を大船渡高校の先生たちは、「自走」とよんでいる。