会期中の通常国会で、与野党の対決法案になっていた「検察庁法改正案」の採決が見送られたばかりか、同法案は秋に開催見込みの臨時国会での継続審議も難しい状況になってきた。
きっかけは、週刊文春のニュースサイトが報じた、黒川弘務・東京高検検事長(当時)の賭けマージャン問題だ。黒川氏本人は、報道が大筋で正しかったことを認めて、5月22日に辞任を正式に認められた。
これを受けて勢い付いた野党やマスコミは、安倍内閣が黒川氏の定年を延長した責任を追及している。それはそれで重要なことである。
しかし、一連の「検察庁法改正案」の最大の問題点は、公訴権をほぼ独占する準司法機関であり、独立性の確保が不可欠な検察の幹部人事に、時の政権が介入する法的根拠を与えてよいのかという点だったはずだ。
加えて、違法行為になりかねない「賭けマージャン」を、緊急事態宣言が発出されて国民が外出自粛を強いられている最中に、「3密」状態になり易いにもかかわらず繰り返す人物が、検察組織の最高幹部の一人に登り詰めていたことの影響は深刻だ。黒川氏個人だけでなく、検察官や検察組織全体への国民の信任を大きく傷付けた。
まず、黒川氏の来歴から見ていこう。
黒川氏は東京都出身の63歳だ。1981年に東大法学部を卒業、1983年に検事に任官して東京地検の検事になった。1997年から、東京地検特捜部で総会屋への利益供与をめぐる4大証券事件などの捜査を担当した後、法務省に異動。刑事局総務課長や秘書課長などを歴任した。その後、2011年に法務省の官房長に就任。松山地検の検事正を経て、2016年に法務事務次官に就任した。
筆者は経済記者出身で司法のことは素人なので、現在もフリーランスとして活動している、ある司法記者OBに取材したところ、この黒川氏の法務次官人事にはちょっとした事情があったという。