消費者同士の情報交換である「クチコミ」と対比されるマーケティングツールとして広告がある。
広告は、商品やブランドについて企業が発するメッセージであり、基本的にそこにはネガティブな要素がない。そのため多くの消費者は、「企業が商品を買わせようとしている」と敏感に察知して、すぐには購買行動を起こさない。
しかも最近はさまざまな広告手法が一般消費者の知るところとなり、よほど独自の訴求ポイントを持つ商品でなければ広告だけで購買行動を起こさせるのは難しくなっている。
そこで注目されてきたのが、インターネット上での利用者の生の声「eクチコミ」だ。
eクチコミは消費者の目には、自分と同じ立場の人が発信している「正直でウソがなく、信頼するに足る情報」と映る。eクチコミは今や、商品やブランドを選ぶ意思決定において広告以上のインパクトを与える存在だ。
「クチコミ」とはそもそも、身近な人からもたらされる信頼できる情報だった。インターネットの普及でそれが匿名の第三者からもたらされるようになっても、「信頼するに足る情報」という前提、あるいは思い込みは変わらず残っているといえるだろう。
スマートフォンの普及なども手伝ってeクチコミの件数が飛躍的に増えたことで、その影響力はさらに大きくなっている。
立命館大学経営学部の菊盛真衣准教授は、「人間は意見形成や意思決定において、情報自体の量の多さに大きな影響を受けるという特性があります」と指摘する。
「人は他人の意見に注目する傾向があり、さらには、意見が多ければ多いほど好ましい評価を下してしまいやすいといえます。簡単にいえば、多くの人が買ったり話題にしたりしていると、『良い商品である』と安心してしまうのです。
多くの研究で、eクチコミの投稿数が多ければ消費者の購買意欲は刺激され、売り上げも増えると報告されています。意見の多い方に直感的に従ってしまうのは、多数決という集団意思決定の文化が浸透していることが理由かもしれません。
特に日本人には、『みんなが言っていることは正しい』と同調しがちな傾向も強いように思います」(菊盛准教授。以下同じ)
現在のコロナ渦においても、同様の同調傾向が人々の行動に影響を与えている可能性を感じることはないだろうか。
菊盛氏は、eクチコミにおいて、そのような人間心理によって生まれるいくつかの“罠”があると指摘する。