在米日本人はきちんと
医療を受けられない人も多い

愛子さんは乳がんを罹患した後、ある日系人向けの乳がん患者団体(現在は活動休止)の代表を引き受けたことがある。そのとき初めて現状を知り、日本人の乳がん患者をサポートしなければと思ったそうだ。夫がアメリカ人の愛子さんはアメリカ人コミュニティの中で暮らしていたため、乳がんになったときもアメリカ人と同じように医療情報を得、医療サポートシステムをスムーズに利用することができた。

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ところがNYのなかでも日本人コミュニティの中で暮らす日本人には十分な医療情報が行き届いていない。そのために、病気になっても満足なサポートを受けないまま不安と孤独を抱えて暮らしている人が多いのだという。

「アメリカは、自分の権利を主張する積極性と言葉を持つことがすべてです。ご自身や配偶者の転勤で来た方もそうですが、アメリカ国籍を持つ日系人でさえも日系企業で働いていたり、配偶者も日本人という方は、家庭では日本語で会話し、価値観も働き方も日本とあまり変わらない方が多い。

また、日本人は礼儀正しく人に迷惑をかけないことを美徳とする傾向があります。それはとても素晴らしいことなのですが、医療制度も価値観も異なるアメリカで病気になってしまうと、それが裏目にでてしまうことがある。日常会話はできても、医学用語が理解できないという言葉の壁と、権利をあまり主張しないことから、医療弱者になっている人が多いことに気づいたのです。

たとえば、がん治療にも複数の選択肢があるのに、医師の言うままになり、不要な治療を受けてしまっている人も少なくありません。医療者とのコミュニケーション不足から不安や孤独、窮屈さを抱えている人が多くいることを知りました。がんという病気の前でも、迷惑をかけない=自分を優先しない、ことになってしまうのです。

さらに、皆保険の日本とは保険制度が違うアメリカに単身で移り住む日本人のなかには、十分な保険に入っておらず、症状があっても病院にも行けない人が少なからずいます。言葉も制度も価値観も違う国で闘病するというのは、とてもつらいことです」(愛子さん)

アメリカ在住の日本人の人口は、わずか5.6%(2010年国勢調査による)。そのうちがんに罹患する人はもっと少ないために、困っている人の存在が埋もれてしまうのだという。この話を聞いたとき、私はとてもショックだった。

NYに住む日本人は多いが、人口割合では、5.6%程度と少ない(写真の人物は本文と関係ありません)photo/Getty Images