大迷走する「9月入学」議論、幼児教育政策から見た「3つの悪影響」

「小学0年生」案は愚策の危険性も…
畠山 勝太 プロフィール

私が専門とする途上国の教育政策で、最も効率的な介入は虫下し薬の配布である、という有名な話がある。

これはRCTを用いて実証された研究であるが、虫下し薬配布の反実仮想は、「ケニアの子供たちに、虫下し薬を配布していなければ、お腹の虫の影響による体調不良で学校に来られなかったり勉強に集中できなかったりする」となる。

この介入における反実仮想を理解しておけば、衛生環境が良くないマラウイやジンバブエでも虫下し薬の配布は最も効率的な教育介入になるだろうということが分かる(反実仮想が同じ)。

しかし、衛生環境の良い日本では、お腹の虫の影響による体調不良で学校に来られなかったり勉強に集中できなかったりする子供が大半だとは考えられず、虫下し薬の配布が最も効率的な教育介入とはならないであろうことが分かる(反実仮想が全く異なる)。

途上国の教育政策を専門とする私が、アメリカで教育政策を専攻している理由もこれである。途上国の教育政策を立案する上で参考にされる教育経済学の研究はほとんどが米国のものである。

途上国支援の政策会議の席で、こういうエビデンスがあるとエコノミストがゴリ押ししてくることがあるが、そのエビデンスの反実仮想の状況(米国)は、途上国にも当てはまるのか大いに疑問が残るケースが大半であった。

 

しかし、私自身が米国の教育状況に不慣れで反実仮想に関して確かな議論ができなかったので、米国の教育政策を専攻することにした。

日本の9月入学の議論についても同様である。

(1)9月入学の反実仮想は何なのか?(2)9月入学の議論で、学校閉鎖や入学年齢の後ろ倒しのインパクトで他国の事例を引く際に、その他国での反実仮想は日本にも当てはまるのか?――という二つの反実仮想を踏まえた議論がされる必要がある。それが踏まえられていない議論の多くはあまり価値がない。