ニック・ランド『暗黒の啓蒙書』への「入口」

民主制からの「出口」を目指して
木澤 佐登志 プロフィール

「新反動主義」の誕生

こうしたリバタリアンの側からなされるリベラルな価値観の否定は、やがて異常な共振性を伴いながらティールの周囲に特異な思想を醸成させていくこととなる。「新反動主義」と呼ばれることになる思想がそれである。

新反動主義を代表する論者の一人、カーティス・ヤーヴィンはシリコンヴァレーを拠点に活動する起業家兼ソフトウェア・エンジニアで、Tlonという彼が設立したスタートアップ企業にはティールも多大な出資を行っている。

ヤーヴィンは、2007年頃からメンシウス・モールドバグというハンドルネームを用いて主にブログ上で言論活動をはじめる。ヤーヴィンのそこでの主張は、一面ではティールの「啓蒙」批判をさらに推し進めたものと解することができるだろう。

ヤーヴィンによれば、現代において普遍的な価値と見なされている啓蒙的な諸価値――ヒューマニズム、人権、民主主義、博愛主義、平等、等々――は、その実まったく普遍的ではなく、それどころか西洋のローカルな宗教――すなわちピューリタニズムに起源を求めることができる、つまりキリスト教プロテスタンティズムが世俗的に変形されたものに過ぎず、それは自らの起源を巧妙に覆い隠したままいまも世界中をウイルス=ミームのように覆い尽くしている、という。

ヤーヴィンはこれを「普遍主義」と名付け、こうした啓蒙主義的価値観は、これもヤーヴィンが「大聖堂(カテドラル)」と呼ぶリベラルな教育機関やメディアから成るネットワークによって間断なく布教されているというのだ。

こうしたヤーヴィンの議論とそれに同調するオンライン上の論者たちは、2010年にこれもリバタリアン系のブロガーであるアーノルド・クリングによって「新反動主義」と命名される。

いまや一つの新たな異形の思想のネットワークが胚胎しようとしていた。そして、やがて一部の「オルタナ右翼」にも思想的な霊感を与えることになる新反動主義というこの新たな思想潮流にいち早く目をつけたのが、前出のニック・ランドその人だったのである。

 

民主制のオルタナティヴな体制を求めて

「暗黒の啓蒙書(The Dark Enlightenment)」という文章は、ランドが2012年の間に断続的にオンライン上に発表したものである。

ランドはそのPART 1において、ティールやヤーヴィンら新反動主義者たちの思想を紹介しながら、そこで目指されているのは民主主義の 「出口(イグジット)」へ向かうことであると要約してみせる。

すなわち、この腐敗が宿命付けられた民主制の〈外部〉を目指すこと、そして同時に民主政に代わるオルタナティヴな体制を具体的に構想すること、これこそが新反動主義の要諦なのだという。

それでは、民主制の〈外部〉は、またそこにおけるオルタナティヴな体制は、いかなる風にして看取されることになるのか。それは、以下に続く本文を読者諸氏が読み進むことでおのずと明らかになるだろう。

登り終えた梯子は投げ捨てられなければならない。よって、梯子の役目たるこの文章もこのあたりで終わりとする必要があるだろう。

(*脚注は割愛しました。)