ニック・ランド『暗黒の啓蒙書』への「入口」

民主制からの「出口」を目指して
木澤 佐登志 プロフィール

あらゆる政治からの「出口(イグジット)」

そうして至った結論、それは考えうるすべての「政治」からの出口(イグジット)を目指すこと、これこそがリバタリアンが掲げるべきプロジェクトとなる。

「政治」からの出口(イグジット)を目指すこと。たとえば、経済学者ミルトン・フリードマンの孫で彼自身もリバタリアンであるパトリ・フリードマンが主導する海上入植(シーステディング)計画は、そうした「政治」からの 出口(イグジット)を目指すプロジェクトの一つとして挙げることができるだろう。

このプロジェクトは、どこの国にも属さない公海上に人工的な島を作り、そこにリバタリアンのための独立自由国家を樹立することを目的とし、ピーター・ティールもそこに積極的に出資を行っていた。

 

啓蒙を脱し、破滅から逃れよ

だが、ティールの民主主義政治批判は、実は金融恐慌以前から一貫して表明されていたものでもある。

たとえば、2004年にティールの母校のスタンフォード大学で開かれたシンポジウムは「政治と黙示録(Politics and Apocalypse)」と題され、9・11以降におけるアメリカ政治の再検討がテーマとなっていたが、ティールはそこで「シュトラウス主義者の時代(The Straussian Moment)」というタイトルの発表を行った(ちなみに、このシンポジウムにはティールの師であるルネ・ジラールも参加していた)。

ティールはその発表で、西洋近代の遺産である「啓蒙」のプログラムは、9・11という出来事によって完全な失敗であったことが証明された、と主張した。

すなわち、「啓蒙」とそれに付随する普遍的でリベラルな価値観――民主主義、人権、ヒューマニズム、等々――がグローバルに輸出されていくことで、西洋は覇権を握ったかに見えた。だが一方で、そうした啓蒙のグローバル化は西洋の固有性を失わせ、さらに個人の自由を大幅に制限するそれらの啓蒙主義的な価値観は西洋をいたずらに弱体化させることに寄与してきた。そうした事態は昨今の中国や東アジアの著しい台頭、そして9・11以降後を絶たないイスラム諸国からの西洋に対する攻撃という形で一層決定的となった。よって、弱体化した上に9・11というトラウマを抱えた西洋は、いまこそ啓蒙主義的な価値観を脱することで、この破滅的な衰退から逃れなければならない。以上がティールの主張の大まかな骨子である。

なお、ティールは先の大統領選挙においてドナルド・トランプを公然と支持し、さらにトランプ政権が誕生した際には政権における有力な政治顧問の一人となりシリコンヴァレーを動揺させたことを付記しておく。