Photo by Getty Images

認知科学者が考える「あのトイレットペーパー騒動は何だったのか」

「デマに踊らされない」のが難しい理由
トイレットペーパーが店頭から消えた。人は開店と同時にドラッグストアやスーパーに殺到し、トイレットペーパーを抱えて嬉しそうに帰ってゆく──。

いったい、あの「買いだめ騒動」は何だったのだろうか。認知科学者の鈴木宏昭氏が、その深層を改めて考察する。

トイレットペーパーの謎

コロナ禍に伴って、マスクをはじめとしたさまざまな日用品が多くの人によって買い集められ、入手困難になった。やがてこれらの品薄は解消されたが、いまも(特定の品名は指摘しないが)商店の棚から消える日用品が見受けられる。

その理由を「転売したい人が買い占めているのだ」と考えるのはさすがに無理がある。日用品の流通量と「転売屋」の部屋の容積とは何ケタも差があるだろうからだ。

では何が起きているのだろう。ここでは「トイレットペーパー騒動」について、改めて考えてみたいと思う。

 

先日、(いっそう愚かな報道ばかりやる傾向が強まった)NHKで、『フェイク・バスターズ』という番組をやっていた。もっともこの番組は比較的まともだということをとりあえず述べておく。

さてここで一連のトイレットペーパー騒動について、SNSの分析をしていた東京大学の鳥海不二夫准教授がとても衝撃的な分析結果を報告していた。

その分析によれば、そもそもトイレットペーパーが不足するだろう(中国製だから)といったのは、たった1人で、そのリツイートもしばらくの間は1回、それも本人によるものだけだったという。

その一方で、それはデマであるというメッセージが2日後には460万を超えるほどになった。これらの中には、きちんと根拠を挙げて論じるものも数多くあったそうだ。にもかかわらず、トイレットペーパーは店頭からある時期ほぼ消えてしまった。

デマだという情報が多数発信され、多くの人がそれに接しているにもかかわらず、結局はデマに従った行動を取っているということだ。

これはどういうことなのだろうか。私の研究してきた認知科学の知見から、以下に考えられる理由をあげていきたい。

「自分は平均以上」と考えて無謀な行動に

第一の理由は、「相互不信」によるものだ。社会的ジレンマと言ってもよい。

つまりみんなが冷静に行動すれば何の問題もない。win/winの関係になる。しかし無謀な行動をとると、無謀な行動をとった人には利得が生じ、冷静な行動をとった人は損害を被ることになる。

そういうことで無謀な行動をみんながとると、全員に大きなコストがかかるという状況なのだ。

さらに「私は信じていないが、周りはバカだらけだからデマを信じて買いだめに走るだろう。すると足りなくなる。よって私も買いだめする」ということも関係するように思う。

みんなデマを信じていない。でも買いだめに走る(2020年3月27日撮影) Photo by Getty Images

有名な社会心理の実験に、自分のペニスの相対的な大きさを申告してもらうというのがある。すると大半の人が平均以上と答えるという。

賢さ、まともさについても同様ではないだろうか。