どんな時代にも、「元手」は必要だ。人生を語る上で、お金は抜きに語れない。「お金のことは苦手」と言うよりも、お金のことを自分で考えることが、自分らしく生きる礎にもなる。特に、お金のことを考える中でも「投資」となるとよりハードルが上がってしまうのではないだろうか。投資の成功や失敗を中心にさまざまな女性の人生を取材していく馬場千枝さん連載「お金と女の人生」、今回は30歳で退職、それまでにコツコツ貯めたお金を投資したにもかかわらず、大きな失敗をした女性の「投資人生」についてお伝えする。

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何も知らなかった自分が悪いのか

このまま預貯金をしていてもお金は増えないというのは、多くの人の実感だろう。新型コロナウィルスの影響で株価も下がっている今だからこそ、投資を始めるチャンスと考える人も増えて、ネット証券の口座開設数が急増しているという。無事に自分の口座ができれば、いよいよ投資を始められるのだが……。次の問題は「何を買うか」だ。

長山由香さん(仮名・59歳)は、北海道在住の独身女性だ。子どもの頃から、余ったお金は貯金をしなさいと親に言われて育ち、18歳で就職してからコツコツと貯金を続けた。仕事はインテリア関係の会社の事務職で、受注発注作業とクレーム処理を担当。何年働いても平社員のままだし、仕事内容もほとんど変わらない。将来性もなく、先が見えないと思い、30歳の時に退職を決意した。この時、貯金は350万円になっていた。

「私が社会に出たころは、郵貯の定額貯金に入れると10年で倍になる時代でした。それで12年間働いて貯金したけれど、あまり増えなかったというのが実感です。今の時代、預貯金にしておいてもダメなんだなと実感しました」

しばらく休むつもりでいたが、かつての客先の企業の内装部門で人手が足りないから来てくれと誘われ、入社した。そこで出会ったのが、証券会社の営業マンだった。もともと社長の営業に通っていた人で、長山さんも話を聞いて、投資に興味を持った。
「初めてなら、安全な銀行株がいいだろうと勧められて、私も大丈夫だろうと思い、北海道拓殖銀行の株を買ったんです。1株150円で1000株。合計15万円投資しました」

ところがである。約1年後、北海道拓殖銀行の破綻が報じられ、株価は底なしに落ちた
「私もすぐに株を売ろうとしたんですが、売り手ばかりで買い手がいないから、証券会社の人に『今日は売れません』と言われてしまう。3日目くらいになって、やっと1株5円、5000円で売れると言われて、『しょうがない、それでお願いします』と言ったんです」

すると証券会社の担当者は長山さんにこう言った。
「『証券会社の最低手数料として2500円いただきます』と。え、ちょっと待って、と思いました。自分で決断して株を買って、私が泣くのは仕方がない。でも証券会社は顧客に損をさせても関係ない。まったく傷つかないんですね。そういうシステムだと言えばそうですが、すごく悔しかった」

預貯金すべてをつぎ込んだわけではない。しかし12年間一生懸命働いたお金から出した15万円が2500円になってしまうとは…… Photo by iStock

結局、長山さんは株を売るのはやめて、当時はまだ存在していた紙の株券を手元に残した。投資は人の意見で決めるのではなく、自分で勉強しなければいけない、という戒めのため、今でも大切に取ってある。