私の働くオーストリアでは、新型コロナウイルスの感染拡大と共に、3月半ばに始まった外出制限が5月から段階的に緩和されることになり、マスク着用などの条件で職場で働くことができるようになった。

しかしその間に、外出制限前は職場で毎日顔を合わせていた女性研究者の同僚が、5月からの契約を更新できず、母国に帰国することになってしまった。外出制限になってから一度も顔を合わせる機会がなく、直接お別れの挨拶をすることもできなかった。

ある女性研究者を追いつめたもの

中米出身のその同僚は、自身の研究者としてのキャリアを前に進めるために、会社勤めの夫のいる母国を離れ、10代の子供と2人でオーストリアに来ていた。しかし、子供が学校で人種差別に遭い、別の学校に転校したものの体調を崩してしまうという出来事もあり、子供のケアを含め私生活での苦労から仕事に集中するのが難しい状況が続き、いい研究結果を出せずにいた。

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そしてその苦しい状況のまま外出制限が始まり、契約を更新する機会を失ってしまったのだ。

この顛末を不運と感じる人もいるだろう。だが私は、この背景には、不運などという言葉で片付けてはならない人種や性別による「差別」という極めて重大な問題が横たわっていると考える。そしていま、新型コロナの感染拡大に伴い、この問題が世界中で深刻化している。