出口治明が語った、コロナ時代には「人生設計より適応力が重要」なワケ

楽しい人生を送るための「底力」とは
出口 治明 プロフィール

なぜゴルバチョフは20世紀最大の偉人か?

ところが、とくに年齢を重ねたわが国の男性は制約を脱ぎ捨てるどころか固定観念にとらわれ、頭が固くなりがちです。固定観念にとらわれているのは重い鎧をわざわざ着ているようなもの。何十キロもする鎧を着ていたら、しんどくて動けなくなってしまいます。川を泳ごうとしたらすぐに溺れてしまうでしょう。

とりわけ頭が固い傾向が強いのが、社会的な地位が高い人たちです。それはエスタブリッシュメントの世界にうまく適応した結果でもあり、若いうちは「俺が偉くなったら変革してやろう」と思っていても、いつの間にかミイラ取りがミイラになっていくのです。

 

偉くなってから自分が本当にやりたいことをやった人は珍しい。そんな人はミハイル・ゴルバチョフくらいではないでしょうか。ソビエト連邦のあのカチカチの官僚組織のなかで上手く生き残って書記長まで上り詰め、ペレストロイカ(改革)とグラスノスチ(情報公開)を断行したのですから本当にすごい。

ロシアでゴルバチョフは評判が悪いですが、それはソビエト連邦という大帝国を解体したからです。でもゴルバチョフがいたおかげで東ヨーロッパは体制を変えることができました。それも、流れるはずの血を圧倒的に少なくして。ほとんど血を流さずに体制変革を成し遂げて何千万人という人々の命を救ったゴルバチョフはおそらく100年後、20世紀最大の偉人の一人という評価になると思います。

ミハイル・ゴルバチョフ(photo by gettyimages)

にわかには信じがたいことですが、ゴルバチョフの信念は「政治と倫理は両立する」「暴力を使わなくても政治はできる」ということでした。こういう夢のような考え方を崩さなかった権力者がソ連のような体制から生まれてきたことは本当に謎ですが、突然変異的な面白い人物が偶然に登場し、社会を前に進めるのが人間の歴史の面白いところです。

最近ならグレタ・トゥーンベリさんが突然変異的な面白い人物です。グレタさんの評価はまだ定まっていませんが、少なくともたった一人の行動で1000万人を超える若者を動かしたというファクトがあります。

やりたいことがあれば簡単には人は死なない

人間の脳はこの1万年の間、進化しておらず、非常に面白い人やとてつもなく有能な人がいつどこで生まれるかはアットランダムです。また、年を取ってから偉大な業績を残す人も山ほどいます。

その好例が4世紀の中国の僧、法顕です。法顕が仏教を深く学ぶため399年に長安(現在の西安)を旅立ったとき、すでに60歳を超えていました。砂漠や高地を越える困難な長旅の後、インドで学び、帰国したときは70歳を超えていました。帰国後は『仏国記』という貴重な旅の記録を残しています。

現在ならともかく399年の還暦ですから、かなりの高齢者です。いまの60歳なら法顕の時代の40歳くらいの体力があるのではないでしょうか。しかも長安を出発したときには何人かのお伴がいましたが、生きて帰ってきたのは法顕だけでした。その違いは結局、必死で仏教を勉強したかった法顕と、ただ付いていっただけのお伴の人という執着力の差だと思います。

つまり、本当にやりたいことがあれば簡単には人は死なないということです。法顕の偉業を思えば、還暦からだって何でもできます。

それでも「経済的な不安は残る」という人がいるかもしれませんが、これは金融機関の宣伝の巧みさにもよるのです。不安を煽ることで外貨建て年金保険などといった、金融庁が問題にするようなリスクの高い商品が売れたりしているのですから。基本的に、いまの75歳の体力は昔の65歳と遜色はないと専門家は太鼓判を押しています。個体差はあるでしょうが75歳くらいまでは普通の仕事はできると考えれば、何の心配もいらないのではないでしょうか。

先日乗車したタクシー運転手の方はかなり高齢で、年齢を尋ねたら82歳でした。なぜ働いているのかと尋ねると、「麻雀が趣味で土曜日に仲の良い友達と心置きなく遊ぶために働いているんです。年金を使わなければ嫁さんも文句を言わないし」とのことでした。80歳を超えても好きなことをやるために働くとは、実に素晴らしい人生ではありませんか。

タクシー運転手は日本全国で不足しています。僕の住んでいる別府では「副業を考えている人はぜひタクシー運転手に!」と看板が出ています。一週間のうち、一日でも二日でもいいから働いてほしいと。

いまの日本は、各年200万人前後はいる団塊世代が退場しつつある一方、新社会人は年100万人前後しかいません。この構造問題はそんなに簡単には解消しません。職種や場所さえ選ばなければ仕事はたくさんあり、高齢者にとっては楽勝の世界です。広く世界を見渡せば、いくらでも生きていく道はあります。

ただ、そのときに邪魔をするのは「大会社の部長だった俺がタクシー運転手なんかできるか」という、世界中ではあまり見られない歪んだ感覚です。気力、体力、能力に応じて働くのが世界では当たり前です。その気持ちさえ捨て去れば、人生はもっともっと楽しくなるでしょう。大リーグでも数々の栄光に輝いた松坂投手が入団試験を受けて中日ドラゴンズに入団し、見事復活したように。

(文・宮内健)