出口治明が語った、コロナ時代には「人生設計より適応力が重要」なワケ

楽しい人生を送るための「底力」とは
出口 治明 プロフィール

直観は意外と正しい

実は意思決定のほとんどは簡単です。たいていの場合、メリットとデメリットが明らかだからです。例えば、出版社が本を出すとき、池上彰さんや佐藤優さんと無名の著者であれば、池上さんや佐藤さんの本を先に出そうという判断は誰でも簡単にできるでしょう。

ただし、なかなか判断がつかないときもあります。それはメリットとデメリットが拮抗していたり、メリットの質が違ったりしている場合です。こういう場合は直観で決めるしかありません。

 

脳の活動の中で人間が意識できている領域は多くて1割くらいしかありません。僕が子供の頃は、人間が意識できる活動だけが脳の働きだと勘違いをしていたので、「脳はほとんど遊んでいる」などといわれていました。しかし現在の脳科学では「脳は常にフル活動している」と考えられています。脳は氷山のようなもので、僕たちが意識できているのは水面上に出ている部分だけで、水面下に沈んでいる巨大な部分は自覚できていません。しかし、この水面下の無意識の部分が大事な場面で情報を総合的に判断します。これが直観です。

「人・本・旅」で直観を鍛える

人は水を飲みたいと自分で意思決定をしてコップに手を伸ばし、水を飲んだと思っています。しかしこれは間違いで、実際には無意識の部分で水を飲む意思決定がなされ、それから二方向に信号が飛び0.1秒くらいで水を飲みたいという意識が生まれ、0.3秒くらいで手が動きだします。そのため人間は「自分の意思で水を飲んだ」と勘違いするのです。ちなみに、この0.1秒、0.3秒というのは例えです。

ところで、火事で生き残った人はほとんど「無我夢中で気付いたら家の外に逃げていた」という人ばかりで、理路整然と避難経路を説明できる人はほとんどいません。これは生きるか死ぬかの瀬戸際では意識の部分に信号を出している暇がなく、行動の部分にどんどん信号を出しているからこそ起こる現象であって、わかりやすくいえばこれが直観です。

直観は脳の最終的総合的な指令であり、今までの人生で得てきたすべての知識、僕の言葉でいえば「人・本・旅」の総合的な蓄積に基づき、無意識の部分の働きによって行われるものです。ですから直観を鍛えようと思ったら、「人・本・旅」で勉強するしかありません。

「この年齢になってから勉強なんて……」という人がいるかもしれませんが、直観を司る脳の部位は基底核。以前、脳学者に聞いた話では、基底核だけは年を取っても進化し続けるそうです。そもそも脳を含めた人間の体力は20歳くらいから少しずつ低下しているので、今さら年齢など気にしても仕方がありません。