出口治明が語った、コロナ時代には「人生設計より適応力が重要」なワケ

楽しい人生を送るための「底力」とは
出口 治明 プロフィール

詳細な感染シミュレーションより体力の維持が先決

僕が学長を務めているAPU(立命館アジア太平洋大学)は日本で一番グローバリゼーションが進んでいる大学で、学生数約6000人の半分が世界92ヵ国・地域からきている小さな地球であり、若者の国連です。これは非常に大きなメリットですが、それはデメリットと表裏一体で、新型コロナウイルスのような感染症が国際的に広がれば一番ダメージを受ける可能性の高い大学でもあります。留学生の出入国ができなくなるのですから。

立命館アジア太平洋大学(photo by iStock)

APUは2月20日の段階で、卒業式と入学式は中止といち早く決定しましたが、問題はこれだけでは終わりません。幸いにも現時点ではAPU関係者の感染者は一人も発生していませんが、発生したら大学は2週間封鎖されるかもしれません。

その時になってみなければキャンパスのある大分県と保健所からどんな指示が出るかはわかりませんが、そうなった場合のシミュレーションをもっともっと詳細に詰めて行うべきだという意見が、先日開催した危機管理対策会議で出されました。確かに正論です。

 

しかし僕は、事務局にこれ以上詳細なシミュレーションを作成しろという指示は出しませんでした。なぜかといえば、これから何が起こるかわからない時はAPUという組織、つまり教職員の体力を維持することが最優先だからです。

感染者が10人発生したらどうするか。では100人の場合はどうかなどというシミュレーションをし始めるときりがありませんし、組織が疲弊してしまいます。今はそんなことをやるよりも、早く帰宅してたくさんご飯を食べて寝なさいと。

セカンドベストの判断力を保つことが責務

いざという時に体力がなかったら組織として対応ができません。格好良くいえばレジリエンスですが、緊急時は組織として機能的に動ける状態を維持することが何よりも重要です。そもそも我々のような小さな大学にはあまり余裕がありません。留学生一人ひとりにメールで連絡を取ったり、新入生のビザ取得の確認などを行うだけでも膨大な作業で、すでにスタッフにはかなり負荷がかかっています。

時間も資源も限られている中で、どんな組織でも大変なときに常にベストな判断が出せるとは限りません。ただ、いかなるときでも、せめてセカンドベストの判断が行えるようにしたい。その時の状況に応じて組織を疲弊させず、体力を温存してなおかつ問題を少なくすることがリーダーの責務であり、最も大事なことは、何が起こっても対応できる適応力の確保にあるのです。

同様に人生は100年もあるのだから、それほど当てにならない詳細な設計図を描くより、自分の能力をわきまえた上で川の流れに身を任せて流れていく方がはるかに豊かな人生だと思うのです。「運も実力のうち」「運を引き寄せる」などという人もいますが、そんなことができるわけがありません。新型コロナウイルスの蔓延を考えれば、運や偶然を人間が左右できると思うのは実に傲慢な考え方であることがわかるでしょう。

川の流れに身を任せるのは悟りの心境でも宗教的な考え方でもなく、人生のリアリズムです。人間にはそれしかできないという事実に基づいて、世界を見るべきです。ただし、還暦を迎えた皆さんはすでに40年も流されてみんな賢くなっているので、上手に流されていくことができるはず。そこで大切になるのが直観です。