「10万円給付」にマイナンバーカード普及が間に合わなかった日本の不幸

「健全な監視社会」は実現可能か?
大原 みはる プロフィール

結局、マイナンバーカード普及の停滞を打破するためには、国民が進んでカード取得に動く分かりやすいメリット――すなわちカネ――を与えるのが一番だと国も腹落ちしたのか、カード利用者に(消費税増税対策とは別の)独自のキャッシュレスポイント還元(25%!)の仕組みを導入する方針が固まった。正式に動き出したのは2019年秋から年末にかけて、コロナウィルスで社会が一変する少し前のことである。

情報をつかむのが早く、利に敏い人は、その時点でカード取得に動き始めていたかもしれない。しかし実際にポイント制度が始まるのは1年ほど先(2020年秋)の予定で、目に見えるほどすぐ「お金がもらえる」ということでもなかったので、取得者が急増することはやはりなく、そのまま今回の「10万円給付問題」に直面したわけである。

 

次はもっとうまくやるために

ここで現場の公務員の気持ちを少し推測してみよう。2009年に実施されたリーマン・ショック後の定額給付金の例があるので、次に同じような給付金事業が行われることになったら、カードを持っているほうが何かと有利だということをうっすらと想像できた関係者はいたに違いない。それをあらかじめ国民に強調していれば、この4年間でもう少しカードは普及していたかもしれない。ただ、行政としては行われる確約がない事業を見込んだ説明はできるわけがないし、そう説明しても普及したかどうかはわからない。

各市区町村では、緊急雇用対策で急遽採用した職員に加えて、他部署(決して閑散部署ではない)から現役常勤職員を次々と引き抜き、10万円給付金担当部署の体制をあわてて整えつつある。マイナンバーカード新規交付だけでなく、暗証番号忘れによる再設定手続きの申込みも殺到しており、全国規模の情報システムへのアクセス集中による障害発生も起き、住民の怒号が鳴り響く中で現場が対応に当たっているのが現実だ。

やれ申請書が届くのが遅い、やれ振込が遅いと国民が怒るのは仕方がない。だが現状は変えようがない。一方、ありきたりな表現で恐縮だが、未来は変えられる。私たちはコロナ禍で多くのものを失った。その犠牲を無駄にしないためにも、せめて社会をもっと強く、良いものに変えなければならない責務がある。