「10万円給付」にマイナンバーカード普及が間に合わなかった日本の不幸

「健全な監視社会」は実現可能か?
大原 みはる プロフィール

もちろん、景品で釣るだけではなく地道な取組みも行われた。総務省の資料によると、地元自治体のカード交付担当部署の職員が県庁、警察署、小中学校、自衛隊駐屯地などに出向き、平日の昼間に役所に足を運ぶのが難しい職員・教員・隊員たちに対して、出張申請受付を実施した全国各地の例が紹介されている。ある意味、「近所に献血バスがやってきたし協力しようか」という気持ちに訴えかけるのと近い取組みといえる。こうした健気な努力には頭が下がるが、全体から見れば焼け石に水だった。

 

国民の協力に頼るしかない

業を煮やした政府は、2019年6月に国家・地方公務員にカード取得を促す方針を決め、職員のカード取得状況の報告を各地方自治体に求めた。東京新聞が「全公務員、マイナンバーカード 年度内取得 事実上強制」という見出しで記事にしている。実際、職員に交付申請書を配った地方自治体もあるというが、職員の自発的な取得を促すだけでは全体の底上げには程遠いままであった。

一般住民への普及を目指す取組みもなかったわけではない。神戸市では、いくつかの大規模商業施設で連続的に市の担当者が交付申請コーナーを出張開設したところ、たった10日で4,439人(市民以外も含む)の申請を受け付けた実績がある。ただそれでも、同市住民のカード取得率は約24%(2019年12月末時点)にとどまっていた。
 
こうしたカード普及の取組みが、いかにももどかしいのは、あくまで国民の「任意の協力」に頼っているからである。いまひとつ決断力に欠けた政府のコロナ対策・自粛呼びかけで誰もがいみじくも実感したように、強大な公権力とリーダーシップで事を運んだ方が効率的・効果的であることが明らかでも、日本ではそうした決断が難しく、各所のバランスを取りながら進めなければならない。そうした政治・行政の苦労と苦悩が、ここでも浮かび上がってくるではないか。