まだ5%しか目撃されていない「深海底巨大地形」はこうなっている

『見えない絶景』前書き全文を特別公開
藤岡 換太郎 プロフィール

熱水噴出孔が発見されて、生命誕生の場ではないかともいわれ、巨大な炎の煙であるプルームの地下での運動を考えるプルームテクトニクスが提唱されました。これらの原動力となったのが、潜水調査船の開発でした。

これによって、暗黒で低温、超高圧の世界をただ垣間見るだけではなく、試料を採集したり、さまざまな計測を行ったり、機器を設置したりすることが可能になったのです。

三大洋の海底を制覇した瞬間

私の研究生活も、日本における潜水調査船の進歩と足並みをそろえて展開していきました。

1981年に「しんかい2000」が建造され、さらに1989年には「しんかい6500」が建造されました。「しんかい6500」は当時、世界最深の潜航能力をもった調査船で、これを手にしたことでわれわれ日本の研究者は世界に先んじて水深6500mの世界に乗り込み、いくつもの新しい発見を達成しました。

しんかい6500しんかい6500 Photo by Getty Images

1998年9月23日、「しんかい6500」は有人潜水船としては世界で初めてインド洋の潜水調査を行いました。

〈よこすか/しんかい着底した異常なし。深さ2690〉

インド洋の海底に着底した鈴木晋一船長のボイスレコーダーの記録です。一緒に乗船したコパイロットは川間格、そして研究者は私でした。これによって私たち3人は、太平洋、大西洋、そしてインド洋の三大洋を制覇した最初の人類ともなったのです。

では、私が経験してきた数々の潜航の結果、いったい何がわかってきたのでしょうか。

新しい発見は、深海底の科学の理論と、どうマッチしているのでしょうか。あるいは、現在の理論では説明できないことはどれだけあるのでしょうか。これは私自身、ずっと興味をひかれてきたことです。

いま、先に言ってしまうなら、深海の巨大地形には、太陽系に第三惑星が誕生したばかりの冥王代からの地球形成の歴史が、あちこちに刻みつけられています。それが何を意味するのか、そこから読みとれる地球のなりたちとはどのようなものなのか、私なりに考えてきたことを多くの人に伝える本をいつか書いてみたいと思っていました。

ヴェルヌは『海底二万里』を書いた3年後の1873年には、『八十日間世界一周』を著しています。この作品も私は大好きです。そこで本書『見えない絶景』では、ヴェルヌの二つの代表作にあやかって、深海底に潜りながら地球を一周する旅にみなさんをご案内しようと思います。

まずはノーチラス号のネモ船長になり代わって、深海に次々と姿を現す「見えない絶景」をご紹介し、みなさんの度肝を抜きたいと思います。そのあと、きっちり80 日で世界一周した冷徹な理論家フォッグ氏にも思いもよらない巨大地形と地球形成史についての理論を披露して、目からうろこが落ちる思いを味わっていただこうという趣向です。

ではさっそく、潜航準備にとりかかることにしましょう。

見えない絶景