まだ5%しか目撃されていない「深海底巨大地形」はこうなっている

『見えない絶景』前書き全文を特別公開
藤岡 換太郎 プロフィール

これらの巨大地形が海底深くに広がっている光景を思い描くと、茫然とするしかありません。一度でいいから、この目で見てみたい、とも思います。

しかし残念ながら、おそらく未来永劫、それは不可能です。深海底は莫大な量の「水」という光を通さない高圧の遮蔽(しゃへい)物によって、すべてが覆い隠されているからです。

人類はまだ5%しか目にしていない

1961年にソ連(当時)の宇宙飛行士ユーリイ・ガガーリンは、宇宙船から丸い地球を眺めて「地球は青かった」という言葉を残したといわれています。

1969年、アメリカの宇宙飛行士ニール・アームストロング船長は月に降り立ったとき、「この一歩は一人の人間にとって小さな一歩だが、人類にとっては大きな一歩である」と言いました。

しかし、深海底を潜航した人が発した言葉として、このような印象的なものはいまだ伝えられていません。何も見えない暗黒の、あたかも黄泉のような世界だからでしょうか。

2019年に人類はついにブラックホールの撮像に成功し、135億年前にできた銀河も視野に収めるまでに至りましたが、それでもなお、人類が直接に目視できた深海は5%にも満たないでしょう。

1万mなど、宇宙のスケールから見ればゼロにも等しいのですが、水によって光を遮られた深海は、ある意味では宇宙よりも遠いのです。

水で1万mも隔てられた先を目視することは難しい Photo by iStock

だからこそ、人類は深海への好奇心をかき立てられ、間接的な観測という手法を進化させて、少しでもリアルにその姿をとらえようと努力を重ねてきました。

それとともに、人類ならではの想像力も駆使して、見えないものを見ようとしてきました。

深海底は地球科学の最前線だ

フランスのSF作家ジュール・ガブリエル・ヴェルヌは1870年に『海底二万里』を著しました。当時はまだ潜水艦が建造されていなかったにもかかわらず、そこに描きだされた深海の臨場感は息をのむほどで、世界中の読者の胸を躍らせました。

『海底二万里』挿画より Photo by Getty Images

ほかならぬ私も、若いころにこの本を読み、さらに映画も観て大きなインパクトを受けたことがきっかけで、大学院の博士課程で深海底の科学を専門とすることになったのです。1974年のことですから、もう45年も前になります。

当時は深海底の観測が進むとともに、地球科学の理論も大きな進歩をとげている時期でした。

1912年にウェゲナーが大陸移動説を、1960年代初めにヘスとディーツが海洋底拡大説を提唱し、それらをもとにして、1967年にプレートテクトニクスという画期的な新理論が登場してきたばかりのころでした。

私が深海研究を志したのは、これら地球科学の原理ともいうべきものが、深海底で観察されるさまざまな現象とどのように結びついているのかという点におおいに興味があったからです。

その後も、海底では大きな発見が相次ぎました。