1954年の映画『海底二万哩』ポスター Photo by Getty Images

まだ5%しか目撃されていない「深海底巨大地形」はこうなっている

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今度の舞台は海底。想像を絶する超巨大地形の数々をキャプテン・フジオカがご案内します!

「逆さエベレスト」よりもっと深くへ

日本中が令和改元に沸き立っていた2019年5月1日、地球で最も深い場所、マリアナ海溝のチャレンジャー海淵で、ひっそりと一つの記録が生まれました。これまで人類が到達した最深点である1万916mを12m更新する、1万928mの地点での潜航に、アメリカの海底探検家ヴィクター・ヴェスコヴォが成功したのです。

地球で最も高い場所であるエベレストは、1953年に人類は征服しています。しかし、その高さ8848mをすっぽり飲み込むほど深い地形が海にあることが観測でわかってきて、人々は驚きました。

山の高さは目に見えても、海の深さを見ることはできません。チャレンジャー海淵で最も深い場所はどこなのか、つまり、海はどこまで深いのかを探るために計測が続けられ、ときには有人探査が敢行されてきました。

1960年にスイスのジャック・ピカールとアメリカのドン・ウォルシュが人類で初めてチャレンジャー海淵に「トリエステ号」で潜り、1万916m地点での潜航を記録しました。

2012年にはカナダ出身の映画監督ジェームズ・キャメロンが1万898mまで潜り、これがそれまでの最深点のレコードとなっていました。

そして2019年、チャレンジャー海淵に潜った世界で4人目の人類となったヴェスコヴォが、その記録を更新したのです(最深点の数値は時代や計測方法などによって誤差があります)。

ヴィクター・ヴェスコヴォヴィクター・ヴェスコヴォ Photo by Getty Images

大海溝、大海嶺、大海台…

地球上の大きな地形といえば、私たちはすぐに、エベレストを擁するヒマラヤなど、陸上の大山脈を思い浮かべます。しかし、じつは深海にはそれらをはるかに上回る、とてつもなく巨大な地形がごろごろしています。

ヒマラヤ山脈は6000〜8000m級の山々が2400kmほど連なる陸上最大の地形ですが、マリアナ海溝には、さきほどのチャレンジャー海淵をはじめ1万m級の溝が、延々と2550kmにもわたって続いています。

しかも、この海溝は北端で伊豆‐小笠原海溝、そして日本海溝ともつながっていて、さらに北へ千島海溝からアリューシャン海溝にまで延びてゆき、それらの総延長はゆうに5000kmを超えます。

もしも海の水がすべて干上がったときに海溝の底から見上げれば、人類は1万m以上もの高さのところにひしめいているわけです。

海溝だけではありません。海底を走っている山脈のことを海嶺(かいれい)といいます。代表的なものには大西洋中央海嶺、東太平洋海膨(かいぼう)、中央インド洋海嶺などがあり、海底からの高さ3000m、幅1000kmほどの山々が連なっています。

それらもまた、つながっていると見ることができ、その長さは、断裂帯(だんれつたい)とよばれる断層で途切れ途切れになってはいるものの、総延長でほぼ8万km、なんと地球を2周するほどの長大さです。

ほかにも、海底の台地である海台には、オントンジャワ海台やシャツキー海台など、日本列島の数倍もの体積をもつという途方もないものがあります。

また、海底の総面積の約30%は、じつは砂漠のような平原です。深海大平原とよばれる何もない平坦な地形が、想像を絶する広さで続いているのです。