軽い荷物、重い荷物

ある週末の晩、母と義母トミ子、私たち家族、5人で夕飯の鍋を囲んでいる最中にこんなことがあった。

テレビではウンチク系クイズ番組をやっていて、漢字の問題が出された。食べながらテレビなんてお行儀悪いけれど、週末はテーブルを囲みながらその番組で答えを言い合うのが習慣だった。老人たちは、黙々と鍋をつついている。
ある問題で、私と娘はぐっと詰まった。

「『箱根八里』の歌を聴いて、この言葉を漢字にしなさい」

『箱根の山は天下の険、函谷関もものならず。ヨウチョウの小径は』

難しい漢字クイズ。家族で頭を悩ませていると…Photo by iStock

ヨウチョウ?  なんだっけ? テレビをにらみながら考え込む私たちに、母がぼそっと言った。 

「ひつじのちょう」 
「え?」 
羊の腸。ようちょう

おおおっ。大正解!  この調子で、母は漢字の問題すべてをクリアした。すごいすごいと歓声を上げる私たちの前で、母は「ちびまる子」の野口さんみたいな笑いを浮かべたのだった。ふふっ。

-AD-

海馬からの道はズタズタでも、漢字を含む文字の記憶は軽量なのか、脳のルートをやすやすと通れるらしい。ただし「懐かしい思い出」というやつは、文字情報とセットで取り出すことができないようだった。親しい人間との情愛に満ちた思い出は、よほど重みがあってかさばる荷物なのだろう。そのことが後々悲しい現実として私に衝撃を与えることになる。