一瞬、絶望しかけたが、まったくそんなことはなかった。
周りを見渡せば、時を前後して創業したナナロク社、アルテスパブリッシング、夏葉社はいうまでもなく、近年では、アタシ社、百万年堂書房、STAND! BOOKS、エトセトラブックス、夕書房、など、ちいさくて粋な出版社がどんどん増えている。こうした出版社の本に触れていると、出版不況など幻想でしかないと確信をもって思う。
また、出版社、書店を問わず、関係者ひとりひとりと話すかぎり、「このままではまずい。変えないといけない」と皆、声をそろえるのだ。
だが、実態としては、「まずい」まま。
とすれば、問題は、個人の大半の意思が反映されない「組織」のあり方にあるのではないか。
誰も望んでいない、大金を叩いての「布マスク2枚」の製造・配布が決定され、現実となる。それも同じことだ。組織が組織として機能していないために、これほどの愚行の横行を許してしまっている。
言い換えれば、日本中のさまざまな場所で起こっているのは、「組織不況」にほかならない。「出版不況」と呼ばれてきたものの正体もまた「組織不況」なのだろう。
組織規模の大小問わず、「おかしい」と感じている人たちはいる。そうした声がちゃんと生かされ、その声にしたがうような組織へ--。
不幸中の幸いというか、新型コロナウイルスの感染拡大によって、置き去りにされてきたさまざまな問題が表面化している。