「〇〇不況」の正体〜布マスク2枚の悲劇を二度と起こさないために

誰もが変だと思っているのに…
三島 邦弘 プロフィール

会社を辞めた理由のひとつに、こうした状況に耐えるのがつらかったことがある。その後、一社を経て、2006年10月東京・自由が丘で単身起業。「原点回帰」を掲げ、一冊入魂の本づくりと熱量そのままに読者へ届けることをめざすことにした。具体的には、出版点数をかぎりなく少なくし、営業的には、取次を介さずに書店との直取引を選んだ。

こうした取り組みの甲斐あってか、会社は現在14年目を迎え、メンバーは14名になった。新卒メンバーも過去7年間に6名を迎え入れた。

しかし一方、世間では「出版不況」の呼び名はこの間も消えることはなかった。それどころか、ますます、事態は深刻化の一途をたどっていたのだ。

 

環境劣化は止まらない

「もうこれ以上、本を返したくない!」

ある書店員があるチェーン店の本屋を辞める日、こう叫んで返品用に山積みされた本を抱きしめたという。

好きで始めた仕事なのに、実際やっていることと言えば本を生かすのではなく殺すこと…。上記の話を親しい書店員から聞いたのはもう7年前だ。以降、似たような事例を幾度聞いただろう。

出版社をつくって以来、個人的には充実感あふれる日々を送っていた。けれど、業界を取り巻く状況は、待ったなしの環境劣化の途にあった。とりわけ、書店と直に取引をする分、必然、書店の現場の疲弊ぶりに直面する機会が多かった。

自分自身は、時代に合わない大量生産の現場から離れ、自分の感覚を取り戻すことができた。けれど、業界全体の地盤沈下という事態は、自社とは無関係にノンストップで進行していた。

「書店との共存はどうすればいいのか? 具体策を講じなければ」

と思うものの答えがあるわけではない。

あるわけではないが、何もしなければ座して死を待つのみ。突破口はどこかにある。そう信じて、さまざまな手を打つことにした。