コロナ禍で断捨離、10年ぶりに段ボールから出てきた「ヤバイもの」

嗚呼、あの頃の俺よ…さらば!
高木 敦史 プロフィール

さておき、平凡で怠惰な日常の中に突然現れた空き巣です。気分も高揚してきます。私は生まれて初めて110番をコールしました。「事件か事故か」これまた物の本では知っていたやりとりを重ねると、すぐさま最寄りの警察署から人を寄越してくれるということになりました。

警察を呼んだら、次です。彼らが到着するまでに何か取られたものがないか確認しておくべきでしょう。しかし、先述の通り私の部屋はほぼゴミ屋敷です。何がなくなったか、少なくとも通帳類など大切な物の安否を確認するには室内を掃除しないといけません。だってこのままでは押し入れの扉を開くことが出来ない。

大事なものは全部押し入れの奥です。押し入れの中を見るにはまず布団をどかしてスペースを作り、そのスペースに押し入れのドアを塞ぐように置いてある机を移動させないといけない。押し入れのドアは観音開きなので、そうしないと扉が開かないのです。でも、警察の到着前に現場を荒らすわけにはいきません。

 

どうしよう。どうすればいい? 部屋の中央で立ち往生です。押し入れの確認をせねばならない、でも部屋の状況を変えるわけにはいかない。

まさに板挟み、何だってこんなことに? くそ、全部空き巣が入ったのが悪いんだ——としばし煩悶し、いや待てこんな倉庫番みたいな手順を踏まないと預金通帳には辿り着けない状況で空き巣が押し入れを荒らせるはずがない、という考えに思い至ったのは玄関がノックされたのとほぼ同時でした。

やって来た警察の方は制服の方が二名くらいと、もう一人グレーの背広にティアドロップ型の色つきメガネを掛けた石原裕次郎フォロワーのような刑事でした。発見の際の状況を話すと、裕次郎が言います。

「だいぶ荒らされたようだね」
「いえ、最初からです」
「これで?」

呆れたような、ギョッとしたような表情でした。まあ、分かります。普通の人が見たら誰だって、荒らされたか引っ越し直前で荷物がひっくり返されているのかと思うでしょう。そのくらい当時の私の部屋は混沌としていましたから。裕次郎は取り繕ったように続けます。

「取られたものは?」
「たぶんないですが、確認してもよいですか?」
「ぜひそうして下さい」

許しを得たので、私は布団をずらし、机をどけて、押し入れを開け、冬掛け布団を出し、炬燵テーブルの板をどかして、その裏に隠すように置いてあった段ボール箱の隙間から強引に手を突っ込み、小さな缶を引っ張りだしました。開けてみると、中の通帳類は全て無事でした。

警察の方々はその様子をポカンと見守ってくれました。私がこの混沌の部屋で私なりの秩序を組み立てていたことに驚きを禁じ得なかったようです。