マンガ『望郷太郎』×中沢新一「格差が生まれる前、人類はこう生きていた」

「ポトラッチ」という失われた文化

21世紀、未曾有の災害で地球は壊滅的な打撃を受け、世界は初期化された。グローバル企業創業家の御曹司・舞鶴太郎が人工冬眠から目覚めたのは、500年後の世界。

愛する家族も、富も権力も失い、人生のすべてが無に帰した。男は絶望の淵から這い上がり、「生きがい」を求めて、祖国「日本」を目指し歩き始める……。

『へうげもの』の山田芳裕がパンデミック時代に放つ、衝撃のハルマゲドン・コミック『望郷太郎』。狩猟採集生活が復活した「未来の部族社会」で繰り返される、人類の、そして文化の根源とは?

今回、待望の第2巻発売を記念して、人類学者・中沢新一が解説文を特別寄稿。テーマは第二部のキーとなる概念「ポトラッチ」。人類が一度は失ったこの風習が、なぜ未来世界で復活しているのか? 知的興奮に満ちたコラボレーションが幕を開ける!

 

「ポトラッチ」とは何か

北アメリカ北西海岸にはチムシアン族、ハイダ族、トリンギット族、サリッシュ族など、有力な先住民たちが生活していました。

この地帯は大河や複雑な入り江に恵まれていて、鮭、鱒、大鮃、鯨などの海産物に恵まれていましたので、古くから裕福な人々として、先住民の世界にその名を轟かしていました。

とても豊かな社会でしたので、早い頃からその社会には階層制度が発達し、貴族と平民と奴隷(戦争に負けた部族の人々が自由を失って勝者に仕えなければならなかったのですが、しばしば自由放免の機会も与えられていました)の三階層からなる社会を発達させました。こういうことは平原部の部族などではめったに起こらなかったことです。この点、少し古代ギリシャの社会に似ているかもしれません。

貴族は自らの体面や名誉をひどく気にしました。昔の中国人のように体面を傷つけられると、いきなり相手の目の前で自害してしまったり、死を賭してでも不名誉を晴らそうとしました。そういう意味では競争意識や威信意識のひどく高い社会だったと言えます。