頭の外で起きることーーギガノベル『おおきな森』創作秘話

虚構は踊り、小説は躍動する
古川 日出男

小説に漂う、過去の作家の無数の声

ここで〝奇蹟〟などという大仰な語を用いると、「ああ、こいつは自分が職業作家である事実に酔ってるんだな」とも誤解されるので、急いで説明を(もっと)前進させる。私から言わせると、オリジナルな小説などというものは作家には書きえない。

このことは今度上梓する『おおきな森』にも記した。引用すると、

普通に考えれば──あるいはどのように常識的に考えても──一人の作家の文章には、その作家が過ぎ去った昔に読んできたであろうところの、かつまた、生まれてこのかた触れてきたであろうところの数十、数百、数千人の書き手の声が響いている。文章の表面には出ずとも反響している。こうした影響をもって、「読書とは、読者が『その作家の過去の読書体験も併せて味わう』ことである」との定理にも落とし込める。

だ。ある作家の1冊の小説を読む、とは、その1冊の10倍、100倍、もしかしたら数1000倍の書物(の「ゴースト」のようなもの)も読む、感受することに通ずる、と私は真剣に思っている。

それで、引用元の『おおきな森』だけれど、このシーンの主人公は坂口安吾だ。私はこのギガ級の小説を、ルビも振れない漢字のを閃いてしまった瞬間から始動させたのだけれども、同時にひきずり出されてきたイメージは、「『満洲』という名前の惑星」というものだった。

その惑星は、全土が鉄路に覆われている、そうした幻影に捉えられた。それから、「満洲」はどうして現代日本では「満州」と表記・誤記されるのだろう? そうした疑念にも襲われた。

あと、ここにはつまり謎があるんだな、とも同時に直観して、そこから続々、文士探偵(が坂口安吾である)だの記憶喪失探偵(はガルシア=マルケスの変異体である)だのお馬さん探偵だのを創造していったのだった。

そして今、彼らはついに「外」=現実に出る。