「ポスト・コロナ」を生きるための現代思想――「ガイア」とは何か?

人間と自然の関係を再考する
森 正人 プロフィール

「自然」の行為能力agencyと地政学

日本語の「気候変動」はclimate changeの訳語であるが、本来なら「気候変化」と訳されるべきである。実際、英語では長期の気候の変化をclimate change、気候の平年状態からの偏差をclimate variationと使い分けている。

しかも、climate changeという言葉を提起する「気候変化に関する政府間パネル (Intergovernmental Panel on Climate Change, IPCC)」は、気候変化が人為的要因に依ること強調するのに対して、気候変動climate variationは必ずしも人為的要因を強調しない。これは行政文書でclimate changeを和訳する際に生じた誤訳である。

と聞くと、どっちでも良いことのように思うかも知れないが、こうした言葉の翻訳は決して枝葉末節の問題ではない。それはしばしば政治的な戦略や含意を持つ。

しかも、気候変化は決して単なる自然現象ではなく、グローバルな地政学を再編成している。環境の変化は国境を越えていくつもの国家に影響を及ぼす。また、環境の変化にともない資源をめぐる国家間の対立も生じる。地球温暖化を初めとする気候変化は水や食糧などの資源の分配バランスを崩す。

そのため、資源獲得を目的とする暴力的な紛争、そしてそれに関連する地政学的問題が引き起こされると論じられてきた。

気候変化にともなう地政学的再編成を2000年代半ばごろから論じてきたサイモン・ダルビーは、国境を越えた環境変化の例の一つとして、温暖化による北極圏の氷の融解を挙げる。

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融解を引き起こす温暖化が何に起因するのかいまだにはっきりとは分からないものの、それにともない水位が上昇することは私たちの、そして動物や植物などの「生活様式」そのものを大きく変化させる問題である。

こうしたグローバルな環境問題は、旧来の地政学が前提とする国家の間で繰り広げられる資源の奪い合い、という問いの立て方に再考を求める。

同じようなことは国境を越えて広がるコロナウイルスにも当てはまる。ウイルスの感染拡大にともなって、当初、各国は国境を封鎖して外国からの人間の流入を止めた。危機に際して国土を再領域化した。しかも、ウイルス発生源と想定される国に対しては様々な批判が重ねられた。

ダルビーの生活様式の再編という指摘は、コロナウイルスに対応するために政府の専門家会議によって提唱された「新しい生活様式」をまるで予言しているかのようでもある。

このように、コロナウイルスは旧来の地政学を復活させた。そして同時に、新型肺炎への対処のための医療品などが国境を越えて提供されるなど、コロナウイルスは新しい地政学的布置も展開するのである。

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