「除霊」の儀式はどう行われるのか?古刹の住職が語る、死者との対話

宮城県「通大寺」金田諦應住職に聞く②
奥野 修司 プロフィール
 

死者とつきあいながら、生きてきた

弘子さんには様々な人が憑依したが、その中に淳哉という、ちょっと不思議な少年がいた。特に印象的な出来事はないが、まるで憑依の間隙を縫うようにして、この少年が登場したという。金田住職が初めて彼の存在を知ったのは弘子さんからだった。

「実はね」

「え?」

「私の中に高校生の男の子がいるんです。そんなに邪魔な子ではないんだけども、私の中が居心地いいみたい。悪さをするわけでもないから……」

「どうするの?」

「(淳哉を)入れるから話をしてみて」

弘子さんがそういうと、いきなり高校生の少年の声に変わった。

「俺の両親は今でも俺のことを思ってくれているし、供養もちゃんとしてくれてるよ。だけど、彼女の中にいるのは居心地がいいんだ」

なんだか、淳哉は彼女の中へ物見遊山にでも来たようにいった。

多くの霊は自分が死んだことも分からずにさ迷っているが、淳哉少年だけは違った。水泳部の朝練に行く途中で、交差点を渡るときに交通事故に遭って死んだことを理解していたし、自分が弘子さんに憑依していることも知っていた。それでいて、決して他の霊とは絡まず、ふいにあらわれて消えるだけだった。

ある時、淳哉少年は「もう、そろそろ出てもいいかな」と飄々とした声でいった。

「でもね、和尚さん、この子(弘子さん)の深いところにはね……、ヤバイよ、ヤバイよ」

「どうしたの?」

「心の深いところに、白い裃をつけた武士と、もっと深いところには甲冑をまとった紫色の武士がいるんだ。おれ、関わるのは嫌だからそっとしてるんだ」

白い裃といえば切腹だろうか。紫色という表現に何か恨みを残した怨霊のようなものを、金田住職は感じた。だからといって、この2人の武士が何かをしたというわけでもなく、ただ居るというだけでは金田住職にはどうすることもできなかった。

「どういう人なのかな?」と訊くこともできたが、憑依しているというより、彼女の深層心理につながっているような気もして、安易には踏み込めなかった。

「おれはね、そこまで彼女に干渉することはできないんだ。それに怖くてさ。だから、おれもそろそろこの子から出て行こうと思う」

淳哉少年が出ていく儀式を始める前に、弘子さんは「この子に塩おにぎり2個あげてちょうだい」といった。金田住職は「なんで?」と尋ねた。

「この子ね、朝練でお腹がすくから塩おにぎりを2個持っていたんです。それを食べないまま交通事故で逝ったことがすごく悔しいみたい」

本堂で儀式を受け、それがひと通り終わろうとする前に、淳哉少年は前に供えられたおにぎりに口をつけた。いや、見える世界では何も起こらない。そう思っただけだ。ただその時、弘子さんの口を通して淳哉少年が「美味しい!」と一言を発した。その瞬間、憑依がとけて弘子さんは普段の弘子さんに戻った。

通大寺の本堂。除霊の儀式はここで行われた

こうした話は、東北の寺を歩けばどこかで聞くはずである。古い寺の住職なら、数年に一度くらいは「除霊」に関わっていても不思議ではないと金田住職はいう。それぞれの寺でそれぞれの僧侶が、はるか昔から、頼まれては憑いた霊を払ってきたのかもしれない。霊魂が存在するかどうかは別として、「除霊」という儀式は、おそらく東北という文化圏の中で陰の文化して密やかに続いてきたのだろう。

連載第1回はこちら