「除霊」の儀式はどう行われるのか?古刹の住職が語る、死者との対話

宮城県「通大寺」金田諦應住職に聞く②
奥野 修司 プロフィール
 

海軍軍人の叫び

「あなたは誰ですか? どうしたいんですか?」

金田住職が声の主に尋ねる。しかし、男は答えない。かと思うと、再び「水島ぁぁぁ~!」と引き裂くような声が部屋に充満した。

「水島って、いったい誰なんですか?」

あくまでも冷静に訊く。しかし、男はそれに答えるわけでもなく、「俺のために、貴様を死なせてしまった。すまん、水島! 俺のせいだ、許してくれぇ~」と、声は慟哭となった。

「あなたはどこにいるんですか?」と訊くと、「海……」といった。

男は、友を死なせてしまった後悔を、何度も何度も繰り返した。口ぶりから旧帝国海軍の水兵らしい。しかし、いくら声をかけても、男は聞こうとはせず、狂乱したように叫び続けた。もちろん、実際に叫んでいるのは弘子さんである。若い女性のどこからこんな野太い声が出るのかと思うほど、男性そのものの声だった。

「あなたはどこにいたんですか?」「水島はどうなったんですか?」と、金田住職は繰り返し繰り返し尋ねた。やがて男は、頑なに閉ざしていた心を開くように、ぽつりぽつりと語り始める。しかし言葉がバラバラでなかなか全貌がつかめない。

どうも水島は、憑依した男の霊と同じ帝国海軍の軍人として広島県の呉軍港にいたようだ。終戦の間際、男らが乗っていた軍艦が米軍の爆撃を受けた。どの艦に乗船していたかはわからない。ただその爆撃で、憑依した男は爆風を受けて海に投げ出される。足を吹き飛ばされたのだろうか。水の中で必死にもがいている男を、水島という軍人が助けたようである。ところがその直後、水島はさらなる爆撃で下半身を吹き飛ばされて戦死した。男もその爆撃で死んだのか、あるいは助かって戦後を生きたのかは不明である。ただ男の霊は、自分のせいで戦友の水島を死なせたと思い込んでいるようだ。

現在の呉市(photo by iStock)

「俺のせいで水島を死なせてしまった。俺のために……、俺のせいで……」

自責と悔悟の念から、鬼気迫る声が訴えていた。

金田住職によれば、これだけのことを聞き出すのに3時間かかったという。

どうやって死者を納得させるか

自分のせいで戦友を死なせてしまったと思い込んでいる男を、どう説得すればいいのか、金田住職は困り果てた。死者との対話にマニュアルはない。自分を責める男の霊としばらくやり取りした後で咄嗟にこういった。

「そうではないだろう。あなたが悪いんじゃない。これは戦争というものの大きな罪なんだ。戦争が悲劇をもたらしたんだ。だけど、大丈夫だ。我々の代で絶対に戦争を起こさないようにするから、安心して成仏してくれ。二度と過ちを犯すことはしない。向こうの世界から我々をちゃんと見ていてくれ」

金田住職が苦し紛れにそういうと、男は意外にもそれに納得したようだった。

男はようやく落ち着いたようだ。金田住職が「これから光の世界へ導くから本堂に行きますか」と尋ねると、男は「わかった」と返した。重い足取りだったが、弘子さんは家族に抱えられながら本堂に向かった。