通大寺の本堂

「除霊」の儀式はどう行われるのか?古刹の住職が語る、死者との対話

宮城県「通大寺」金田諦應住職に聞く②
憑依した死者を成仏させる「除霊」の儀式は、今も日本でひっそりと行われている。
東日本大震災の犠牲者に憑かれたケースを紹介した第1回に続き、ノンフィクション作家・奥野修司が東北地方の「陰の文化」に迫る!
 

東北の古刹を訪ねて

新型コロナウイルスがまだそれほど大騒ぎになっていなかった3月初旬、私は宮城県栗原市にある古刹、通大寺の門をくぐった。前回、東日本大震災で亡くなったワカナちゃんの父親の霊に憑かれた小野弘子さん(仮名)が、通大寺で金田諦應住職に除霊してもらったことを書いたが、実は弘子さんに憑依した霊は1人や2人ではなかった。金田住職によれば、20人近い霊が憑依したはずだ、という。

弘子さんに憑依したのは、はじめのうちは東日本大震災と関係のある霊ではなかったようだ。では、どんな霊が弘子さんに憑き、金田住職はどうやって除霊したのだろうか。そんなことを伺いたくて再び訪ねたのである。

宮城県・通大寺の金田諦應住職

春だというのに、その日の東北はまだ防寒具が必要なほど肌寒く、おまけに鉛色の空が広がっていた。気分を萎えさせるような天気だったが、しかしそれも、通大寺の門をくぐった途端、なんだか「除霊」について聞くのにふさわしい舞台設定のように思えてきた。ただ、前回も述べたが、「除霊」というと、どうしても悪魔払いのイメージがあるが、少なくとも東北で憑く霊は悪魔ではなく、多くは「迷える霊」である。それも追い払うのではなく成仏してもらうのだから、正確には「除霊」という言葉はふさわしくない。ただ他に適当な言葉がないから、ここではあえて「除霊」とさせていただいている。

通大寺は、今から500年ほど前に中尊寺末の寺を移転して開山した曹洞宗の寺院である。寺院内に耕雲閣という建物があり、私はそこの20畳ほどの応接間に通された。霊に憑かれた小野弘子さんがやってきて、最初に金田住職と対面したのもこの部屋だ。

金田住職によれば、この部屋に到着したときの弘子さんの様子は日によって様々で、すでに彼女の人格が憑いた霊に変わっている場合もあれば、霊が侵入するのを必死に拒絶しながら悶絶していることもあったそうだ。

あれはワカナちゃんの父親の霊に憑かれる数週間前だった。突然、帝国海軍の軍人の霊があらわれたという。その日、弘子さん自ら電話をしてきたが、通大寺に辿り着いたときはすでに夢うつつの状態で、山門から続く石畳を、家族に引きずられるようにしてやってきた。憑こうとする霊を必死に拒絶しているらしく、玄関を開けるなり弘子さんの唸るような声が響いてくる。

苦しそうに悶えながら「私の中へ入ろうとしているの。どうも軍人さんみたい。苦しい……、もうだめだわ」と、途切れ途切れに言葉を絞り出す。かと思えば突然、「うう~、ワタクシは……」と、軍人のような固い男の声に変わった。

そんな弘子さんを前にした金田住職はやさしく言った。

「安心して(体に)入れてあげなさい」

すると弘子さんは、「わぁ!」と声を上げると虚脱状態になった。のちに、その時の感覚を弘子さんは「私の心の中にガラスの箱があって、閉まっている蓋を霊がこじ開けて入ってくる感じ」と表現したという。

憑依すると、突然男の声で「水島ぁ~」と、弘子さんに憑いた霊は叫んだ。若い男なのか年寄りなのか、どちらとも言えない不思議な声だった。