弁護士がよく使う議論のテクニックとして「そもそも論法」というものがあります。
(1)「そもそも」(大前提)
(2)「ところで」(事実認定)
(3)「とするならば」(事実を大前提にあてはめる)
以上の順番で議論を展開する方法です。たとえば、以下のように使います。
あなた「そもそも人間は、約束をしたら、その約束を守るべきですね」
相手「そうですね」
あなた「ところで、あなたは、私にこの土地を売ると約束をしましたね」
相手「はい」
あなた「とするならば、あなたは、約束に従って、この土地を私に売るべきですね」
(1)「そもそも」では、相手が否定しにくい価値観で同意を得ます。
(2)「ところで」では、価値観にあてはめるべき事実認定をします。
(3)「とするならば」で、事実を価値観にあてはめて結論を導きます。
過去の裁判事例では、ハイヤー事業を営む会社が、社内の規則に「ヒゲをそり、頭髪は綺麗に櫛をかける」という決まりがありました。しかし、ある運転手がヒゲをはやしたまま乗務しようとしたことから「ヒゲを剃らないと乗務させない」という命令を発したので、運転手は「それは違法だ」として裁判を起こしました。
結果、裁判所は、次のような論法により、ハイヤー運転手を勝訴させました。
(1)そもそも、ハイヤー運転手は、業務の性質上顧客に対して不快な感情や反発感を抱かせるような服装、振る舞いなどが許されないことから、ヒゲ禁止規定が設けられたものである
(2)ところで、本件運転手のヒゲは格別、顧客に不快感を抱かせるようなヒゲではない
(3)とするならば、本件運転手のヒゲは規則に違反しておらず、命令は違法である
このように「(1)そもそも(大前提)→(2)ところで(事実認定)→(3)とするならば(事実を大前提にあてはめる)」という順番で議論を展開すると、説得力を持った主張にすることができます。