パリの住環境は東京と変わらない

といってもあなたは、「フランスとわが国では住環境がちがう。わが国はフランスほどよくない」と、お思いになっているのではないだろうか。

フランスというとすぐにあなたは、川のほとりの瀟洒な、シャトーのような豪華な家をイメージなさる。四季折々の花が咲いているガーデンを抜け、大理石の玄関がある邸宅を。あるいは石の床に敷かれたカーペットの上で、ラブラドールやドーベルマンなどの大型犬が寝そべり、濃いグリーンか茶の皮製のソファーで、ガウンをまとったムッシュがフィガロ紙かなんか読んでいる光景を。タピスリーが壁に掛かり、暖炉からはぱちぱちと薪がはじける音がする、シックな応接間を思い浮かべるのではないだろうか。

1976年当時、セーヌ川のほとりにあった、イヴ・サンローランのアパートメント。とても素敵だけれど、日本でだって実業家やスターの豪邸は素敵なはず  Photo by Pascal Hinous/Conde Nast, via Getty Images

大きな皮製のソファーや暖炉のある居間がヨーロッパ式の住居には欠かせないが、パリで普通の人たちが住んでいるアパートはどれも、日本のみなさんの期待を裏切る狭さだ。20年で3度、正確には4度の引越しを経験した私がいうのだからたしかだし、パリに住んだことがあるお友だちのお友だちからあなたも、お聞きになっているのではないだろうか。たとえお聞きになっていてもまさか、パリがわが国よりも住宅事情がよくないとは、にわかには信じがたかったかもしれないが。

外国人がわが国の住宅事情を評していった、「ウサギ小屋」などという言葉を鵜呑みにしたのがいけなかった。かくいう私もパリで暮らす以前は、わが国の住宅事情が先進諸国の中で劣っていると信じて疑わなかった。東京の町が世界でもっとも物価が高く、住みにくいともいわれている。ウサギ小屋だといった外国人は、母国でお屋敷住まいをしているにちがいない。アメリカの場合なら、アリゾナの田舎町でなくても、ニューヨーク郊外やロサンゼルスなどの大都市でも、わが国よりも住宅事情がいいのはたしかだ。

だが少なくともフランスとイギリスならば、首都のパリもロンドンも、東京とそれほどちがわない。パリは私の第二のふるさとだし、ロンドンに数年間、アパートを持っていたことがあるので、あの町のことも熟知している。それにしてもロンドンのアパートはどこも、お湯の出がよくなかったのはどうしてだろう。お家賃にしても面積が同じだとしたらパリとロンドンは、東京の港区や千代田区並みの高さだ。

バブル以降ならむしろ、東京のほうがお家賃は安い。どうして東京の物価が世界一高いと思われ、もっとも住みにくいといわれてしまうかについてこれ以上話していると、本筋を外れてしまうので割愛する。いずれにしても、普通のパリっ子たちが住んでいるアパートは、決して広くも豪華でもないことだけを、ここで私は繰り返し申し上げたい。