さらば「キャス9」 日本独自のゲノム編集技術「キャス3」とは何か

東大教授にしてベンチャーを起業!
リケラボ プロフィール

──ということはCas3の方が、先に見つかっていたのですか。

そのとおりです。そしてCas3を使ってもゲノム編集をできるのではないかと、2016年から大阪大学微生物研究所の竹田潤二招へい教授が始めた研究に、私も参加しました。

ところがCas3では、Cas9のようにゲノムを切ることができなかったのです。Casシステムでは、Casタンパク質とガイドRNAが複合体となって作用します。ポイントは、このガイドRNAが成熟型であることです。

ところが、あるとき実験を担当していた学生が、たまたま成熟型RNAではなく、その前段階の未成熟なRNAを使ったところ、Cas3でゲノム編集ができてしまったのです。

──偶然の結果を見逃さなかったのですね。

誰もやらないことをやったときに思わぬ成果が出るのは、科学の歴史上何度も繰り返されてきたことですが、同じ幸運も我々も見逃さなかったといえます。

そして、なぜ成熟型RNAではなく未成熟なRNAでゲノム編集をできたのか。そのメカニズムを徹底的に追究した結果が、CRISPR-Cas3に関する私たちの知財につながったのです。

ハサミではなくシュレッダー

──Cas9とCas3は、どのように違うのでしょうか。

 

Cas9をハサミとたとえましたが、Cas3はシュレッダーといえばわかりやすいでしょう。Cas9がピンポイントで切るだけなのに対して、Cas3はゲノムをごそっと切り取って変えることができます。

CRISPR-Casシステムは、複数タンパク質の複合体でDNAを切断するClass1と、1つのタンパク質で切断するClass2に分けられます。Cas9はClass2であり、Class1でのゲノム編集技術は、これまで報告されていませんでした。

CRISPR-Cas3は、Cas5、Cas6、Cas7、Cas8に加えてCas11の複合体となってDNAを大きく切断する

──つまり、まったく新しいゲノム編集技術を開発した。

Cas9との重要な違いは、Cas3を開発したのは我々だということ。これは日本発の技術であり特許も日本で取得済み、国際特許も出願しています。産業利用してもCas9で想定されるような膨大な特許料を心配する必要はありません。

しかもCas9でできることは、たいていCas3でもできます。さらにCas9とは違ってゲノムを大きく削ることができるので、ゲノム領域を丸ごと変えてしまうような遺伝子治療に使える可能性もあります。

──Cas9ではオフターゲットの問題が指摘されますが。

狙ったところとは違う場所のゲノムを切ってしまう、いわゆるオフターゲット問題については、我々もCas3の安全性を確かめるための実験を繰り返しています。

まだ確定的な話はできませんが、現時点で取れているデータでは、オフターゲットが起こる確率は、Cas3のほうがCas9と比べて少ないようです。

──活用の可能性がどんどん広がりそうですね。