──遺伝子組換えとゲノム編集、用語が2つありますね。
遺伝子組換えは、1970年代から使われはじめた技術です。たとえば、農業分野では「遺伝子組換え作物」がいくつも作られています。
あるいはバイオ医薬品も実用化されています。たとえばヒトのインスリン分泌に関わる遺伝子を取り出して大腸菌に組み込めば、大腸菌がヒトのインスリンを分泌するようになります。これはバイオ医薬品として糖尿病の治療に使われています。
これらはいずれも遺伝子組換え技術によるものであり、その延長線上にあるのがゲノム編集です。
──基本的な考え方は同じ、ということでしょうか。
そのとおりです。そもそも遺伝情報とは、DNAを構成する4種類のデオキシリボヌクレオチドの塩基の並び方を意味します。A(アデニン)、T(チミン)、G(グアニン)、C(シトシン)が数珠つなぎの二重らせん構造となっているのがDNAです。
この塩基の並び方を変えるのが、遺伝子組換え技術でありゲノム編集です。ただ「組換え技術」が「編集」に進化し、効率が数千倍から数万倍に高まりました。
──そこまで効率が変わるのは、何かが決定的に違うのですね。
以前の遺伝子組換えは、外部から遺伝子を導入して配列を変えます。たとえば医学の実験用動物として使われるノックアウトマウスとは、特定の遺伝子を破壊し、その結果として病気が発症するかどうかをみるものです。
ただ、特定の遺伝子を破壊しても思い通りの結果が得られるとは限りません。偶然に頼る必要があるため、1匹のノックアウトマウスを作るのにも、遺伝子組換え技術では同じ作業を何度も繰り返す必要がありました。
これに対してゲノム編集では、DNAの狙ったところを切ってDNAの並び方を変えます。その編集ツールとして、初めて1996年に開発されたのがジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)。続いてTALEヌクレアーゼ(TALEN)が開発され、そしてよく知られているのが2012年に誕生したCRISPR-Cas9です。