温泉は現地に行ってこそ。いくら状態の良い源泉が届くと言えど、宅配温泉など邪道の極みであると、これまで思ってきた。
しかし今回の緊急事態宣言のために、この私が温泉に入ることなく1ヵ月以上が過ぎた。22年間、温泉エッセイストとして活動してきて、これぞありえない緊急事態である。
もう我慢できない!……そこで、日本三大薬湯で知られる松之山温泉の源泉10ℓが含まれる、新潟県松之山温泉コスメシリーズ「3日間集中ケアセット」を注文した。
「本品は自然冷却した源泉をパック詰めにしたもので水等は一切入っておりません。ご家庭のお風呂でのご使用は1回に1/2から1パックをご使用ください」という説明文が中にあり、お湯の品質は保証されている。
家のお風呂に5割くらいのお湯を張り、温泉パックから源泉を注ぎ込む。「とぽとぽとぽ~」と重たい音がお風呂場に響く。ふわっと鼻孔がくすぐられた。松之山温泉特有の湯の香りだ。
たちまち、今頃見られるであろう緑萌ゆる松之山の風景が浮かんできて、恍惚となる。
お湯に浸かる。通常の温度設定のはずなのにドクドクと心臓の鼓動が早まる。さすが1200万年前に、大地が隆起した際に閉じ込められた海水。松之山温泉特有の化石海水のお湯は塩っ辛く、瞬く間に身体を温めた。
湯上がりは、汗が止まらない。ゆっくり汗がひいていくと、徐々に身体がほどけていくことに気づいた。コロナ騒ぎが始まって以来、いつもどこかで緊張していたのが、解放された瞬間だ。私はこの時の快感を忘れないだろう。
温泉ミストを顔にシュッと吹きつけてから、フェイスマスクをつけた。こころもち、翌朝は肌がぷるぷるとしている。
「3日間集中ケアセット」の内容は充実している。松之山温泉源泉10ℓ以外に、松之山温泉ミスト200gと80gが1本ずつ、松之山温泉フェイスマスク3枚、松之山温泉石けん1個、松之山温泉発泡入浴剤3個、松之山温泉リップクリーム1本、お茶1袋、手ぬぐい1枚。
「おまけ」として松之山温泉湯治玉子3個(!)が入り、これで9000円は、このセットがもたらしてくれた多幸感を思えば、決して高くはない。