新型コロナの「自粛警察」が抱いている「恐怖」の構造

アルコール、ドラッグの歴史から考える
渡邊 拓也 プロフィール

感染症としてのアルコール中毒は、1872年のフランス禁酒会(SFT)の立ち上げに携わった医師ベルジェロンが、「アルコール疫病」という言葉を使ったのに端を発する。

当初それは単なる比喩表現に過ぎなかったかもしれないが、やがて「模倣」という社会心理学の概念に裏付けされる形で、医師や精神科医たち——当時の「専門家」たち——によって真剣に論じられた。メディアの犯罪報道が「模倣犯」を生み出すとの議論が出現するのも、ちょうどこの頃である。

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危険視されたのは、こうした空間的(水平的)な伝染ばかりではない。より深刻だったのは時間的(垂直的)な伝播の方だった。つまり親から子への遺伝による感染である。

「酒飲みの子は酒飲みになる」といった俗説が、科学者によって熱心に検討された。同時期に、阿片やモルヒネなどの薬物依存も、獲得形質の遺伝(人間が後天的に身につけた性質が遺伝すること)によって、子世代へと継承されると説明された。

それらは19世紀末のフランス精神医学によって、デジェネレッサンス(変質=退化)の名を贈られることになる。もし放置すれば人類は遺伝的に劣化し続け、滅亡に至るというのである。

こうしたどこか優生学的な学説は、無論現在では明確に否定されている。しかし当時の西欧は進化論と遺伝研究の流行期を迎えており、それゆえ大きな影響力を持ちえたのだった。同じような時期に、イタリアの犯罪人類学者ロンブローゾは、犯罪は遺伝する(犯罪者の子は犯罪者になる)との学説を発表し、凶悪犯の断種(去勢)までを主張していた。